『イン・ザ・ヒーロー』に主演した唐沢寿明

俳優の唐沢寿明が、夢を追い続けるスーツアクターの悲哀と奮闘を描いた感動作『イン・ザ・ヒーロー』で5年ぶりの映画主演を果たした。唐沢演じる主人公・本城渉は、戦隊ヒーローものを影で支えるベテランのスーツアクターという役どころ。「いつかスクリーンで、顔出し出演する」という長年の夢を叶えるチャンスが舞い込むが、それは命を危険にさらす危険なスタントだった。

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「台本を読んで、自伝かなって思いましたよ」と振り返る唐沢は、16歳から4~5年の間、スーツアクターとして仮面ライダー、スーパー戦隊といった特撮シリーズに出演した経歴がある。それだけに、“分身”ともいえる本城の存在に対して「自分自身で体を張らなきゃいけないシーンも多々あるから、最初は迷いもありました。でも、当時の苦労や『夢を叶えるんだ』っていう思いは、本当によくわかりますね。僕に限らず、スーツアクターなら例外なく経験することじゃないかな。当時の夢? そりゃ、顔出しの出演ですよね」と強い共感と意気込みが込められている。

なかなか、日の目を見ない主人公・本城とは対照的に、現在の唐沢が確固たる成功を手にしたことに異論を唱える者はいないはず。それでも、当の本人は初心を忘れず、謙虚な姿勢を崩さない。「人間だから、心のどこかで仕事があるのが当たり前だと思ってしまう。ただ、今回、オーディションに落ちまくっていた若い頃を思い出しながら、『一生懸命やる』。それだけだなって改めて思いましたね。僕の場合、自分で仕事を選ぶってほとんどないんですよ。本城だって、決して格好いい役じゃない。けど、周りが見たいと言ってくれれば、何でもやりますよ!」

そんな唐沢を、本作ではスーツアクター時代の仲間たちが支えてくれたという。「今は殺陣師になった当時の仲間が現場で指導してくれたり、本当にありがたいですよね。久々に一緒にメシを食っても、話す内容ってほとんど変わらないし(笑)。いろんな出会いに助けられ、引っ張ってもらった。そういう意味では運が良かったですよ、僕は」。そう語る唐沢の笑顔こそ、スーツアクター時代から変わらぬ俳優の原点なのかもしれない。

『イン・ザ・ヒーロー』
9月6日から全国公開

取材・文・写真:内田涼