“性的描写”が有害とみなされたケース

1989年の幼女連続誘拐殺人事件(宮崎勤事件)がお茶の間を賑わせた直後から“オタク=犯罪者予備軍”という風潮が強まり、以前にもましてメディア・教育関係者・市民団体などが“暴力・ポルノ的コンテンツから子供たちを守ろう!”と叫ぶようになった。

真っ先に批判にさらされたのは、当時すでにアニメ化され人気だった『北斗の拳』『ドラゴンボール』などの格闘バトル作品。しかし調べてみると意外なことに、暴力描写そのものが理由になって回収・絶版騒ぎになった漫画作品は見つからない。

 

代わりに次々と絶版を強いられたのが、性的描写を前面に出した漫画だった。月刊少年マガジン連載の『いけない!ルナ先生』(作:上村純子)が絶版、同作者による『1+2=パラダイス』が実質上の打ち切り、サングサンデー連載の『ANGEL』(作:遊人)が絶版になるなど、“一般誌に掲載されるお色気コメディ漫画”が有害コミックとして狙い撃ちにされる形となった。

これら絶版作品の多くは後に成人向け漫画として復刊されたため、完全に闇へ葬られたわけではない。だが上村氏は当時の異常なバッシングに納得いかなかったらしく、復刊された『いけない!ルナ先生』の巻末にわざわざ短編を描き下ろしてまで、行き過ぎた表現規制への反論を述べている。

“暴力的・性的なコンテンツが実際の犯罪行動につながるかどうか?”はさまざまな研究が行なわれ、否定的な学説が現在は多いようだ。公表されている犯罪統計データでも、漫画やアニメが普及するにつれて性犯罪の件数は減少している。

しかし“オタク=犯罪者予備軍”という強固なレッテルは今なお残り続けており、何か事件が起きると「逮捕された犯人は○○というアニメが好きだった」といった話がさかんにメディアから報じられる。今月1日、アニメ規制の必要性をテーマに放送された討論バラエティ番組「ビートたけしのTVタックル」でも、アニメは犯罪行為を誘発するという研究者の説が提示され、その賛否をめぐってネット上で大きな議論が巻き起こった。

今年6月に成立した「改正児童ポルノ禁止法」ではひとまず漫画・アニメなどの創作物が規制から除外されたが、まだまだ“過激なコンテンツを規制すべきかどうか?”の議論自体は続いていきそうだ。