マイクロソフトがCOMPUTEXの基調講演で発表したシャープ製ディスプレイ(米マイクロソフト公式ブログより)

【日高彰の業界を斬る・17】前回の記事(「東芝、PC撤退(上)」)でも述べた通り、東芝のPC事業は非常に厳しい状況にある。それを買収したシャープは、どのように再生を図っていくのだろうか。


「東芝、PC撤退(上)」はこちら=https://www.bcnretail.com/market/detail/20180610_63915.html まず、今回の買収はシャープ単独というよりも、シャープが属する鴻海グループの戦略下にあると考えるのが当然だ。いうまでもなく鴻海は世界最大のEMS(電子機器製造受託サービス)企業であり、グループ内に東芝のPC事業を加えることは、東芝PC側からみればスケールメリットの獲得、鴻海側からみればノートPC製造能力の拡大という効果がある。

東芝PCが鴻海グループ入りするという一報を聞いてまず思い浮かんだのが、今年1月に台湾の業界紙「DIGITIMES」が報じていた「Apple to give more MacBook orders to Foxconn in 2018(アップルが鴻海へのMacBook発注を増やす)」というニュースだ。この記事によると、アップルはMacBookの生産を台湾クアンタと鴻海の2社に委託しているが、2018年は鴻海への発注比率を引き上げるというのだ。

鴻海の最大の収益源はiPhoneの製造受託だが、同社の事業に占めるiPhoneの比率が高くなりすぎることはリスクでもある。昨年9月に発売されたiPhone 8は、その直後にiPhone Xが控えていたため初動が低調だったほか、肝心のiPhone Xの生産も当初は歩留まりが上がらず停滞。昨年7~9月、鴻海の純利益は前年同期比39%減と落ち込んだ。年末に盛り返して結果的に鴻海の通年業績は悪くなかったが、iPhoneのスケジュールに業績があまりにも大きく振り回されるのは健全ではない。

一方、鴻海はPCの製造でも有力な企業の一つだが、カテゴリでいうとデスクトップPCやサーバーが中心で、ノートPCで同じ台湾企業のクアンタやコンパルなどに規模で遅れていた。今やノートPCは必ずしも収益性の高い製品ではないが、グローバルでみればまだまだ巨大な需要がある。鴻海がMacBookの受注増によってノートPC市場でも存在感を高め、製造規模を拡大できれば、業績の安定につながるだろう。

東芝は中国・杭州にPCの製造拠点(東芝情報機器杭州社)を構えており、鴻海としてこれを活用すれば、ノートPCの製造キャパシティを拡大でき、PCのコスト構造でカギとなる部材調達のスケールメリットをさらに活かせる。本当にアップルが鴻海への発注を増やしたのかは不明だが、将来的に鴻海グループのノートPC事業規模が大きくなれば、これまでダイナブックをつくってきた工場が、MacBookの製造も手がける可能性は否定できない。

台湾ではMSがシャープの新製品を大きく紹介

また、「パーソナルコンピューター」という製品の概念自体も大きく変化しつつある。先日、世界から多くのバイヤーやメディアが集まるコンピューター見本市「COMPUTEX TAIPEI」が開催されたが、基調講演を行ったPC業界の盟主であるマイクロソフトは、約1時間半のプレゼンテーションのうち、PCに関する話題をわずか数分にとどめて残りの時間、クラウドやAIといった技術をいかにして家庭やオフィスに届けるかの戦略説明に費やした。

講演のなかで同社が最も大きく取り上げた新製品の「Windows Collaboration Display」は、カメラやタッチパネルを搭載した大型ディスプレイで、クラウドと連携して会議や共同作業を効率化できる。そして、奇しくもこのディスプレイの第一弾としてステージ上で披露されたのが、シャープ製のものだったのだ。

シャープが得意とするディスプレイやカメラモジュールといったキーデバイスと、東芝によるPCの設計・製造技術は、新たな形態の情報端末をつくるために不可欠な要素であり、相互に補完的な関係だ。マイクロソフトが推進するような、コンピューティングの新しい姿を実現していくプレイヤーとして、シャープが活躍できる場面も多いのではないだろうか。

とはいえ、シャープが再参入するPC事業が、ここまで述べてきたような筋書き通りにうまくいく保証はない。むしろ、相当に難度の高い取り組みであるといったほうが正確だろう。

シャープはかつて、スマートフォンのハイエンドモデルを広島工場で製造していたが、鴻海傘下入り後、同工場の製造機能を縮小し、現在ではスマートフォンほとんどが鴻海側での製造に移行している。シャープは東芝PCの買収後、杭州の製造拠点を継続して活用していく方針を示しているが、それが本当に中長期的に続くのかが、見通せない部分もある。

また、IoT・AI時代に対応した新たな情報端末の開発も、まさに“言うは易し行うは難し”だ。前回の記事で触れた通り、東芝は近年売れ筋の標準的な形態のPCに注力しており、市場に驚きをもって迎えられるようなデバイスは久しく発売していない。もし、企画・開発でも製造でも独自性を出せなかった場合、結局鴻海グループに東芝のブランドだけが移ったという結末になりかねない。

鴻海からみれば、東芝ブランドに製造設備や技術者まで付いて、負債の肩代わり分を含めても約100億円でPC事業が丸ごと手に入るのであれば、ブランド以外の活用がもし失敗に終わっても、“お買い得”な買収なのかもしれない。しかしシャープの買収発表資料には、「本件事業承継を必ずや当社グループの企業価値向上に結び付けてまいります」の一文が刻まれている。苦境に陥っていたノートPCブランド「ダイナブック」を、価値ある事業へと復活させることができるのか。シャープを蘇らせた戴正呉社長の手腕が再び問われる。(BCN・日高 彰)

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