大山格之助役の北村有起哉

 有馬新七(増田修一朗)が壮絶な最期を遂げ、幼なじみである吉之助(鈴木亮平)たちの心に深い傷を残した寺田屋騒動。血気にはやる有馬を説得できず、騒動の当事者となったのが、同じく吉之助の幼なじみ、大山格之助である。生き残った大山は心の傷を抱えたまま、動乱の幕末を駆け抜けていくことになる。演じる北村有起哉が、寺田屋騒動の舞台裏から演技に込めた思いまで、縦横無尽に語ってくれた。

-大山は寺田屋騒動の当事者として、有馬の死に立ち会ったわけですが、そのときの心境はどんなものだったのでしょうか。

 有馬は幼なじみですから、動物に例えたら共食いみたいなもの。やっぱり、同士討ちは嫌だったでしょう。何とか説得したかったはずです。とはいえ、藩の命令には逆らえないし、暴走しているので止められないだろうと覚悟していた部分もあったに違いありません。いずれにしても、相当つらかっただろうと思います。

-寺田屋騒動は、大山にとって一つの転機になりそうですね。

 仲間を死なせてしまったという負い目が、大山のトラウマになるはずです。これによって吉之助に頭が上がらなくなり、後の西南戦争での資金援助につながっていく。僕はそう考えています。その辺りの脚本はまだ頂いていませんが、大河ドラマは長期間の撮影になるので、そういった、点と点の出来事をうまくつなげて、大事に演じていきたいです。

-寺田屋騒動では殺陣も披露されましたね。

 薩摩独特の剣術“示現流”をきちんとやらなければいけなかったので、難しかったです。現場には示現流の先生と殺陣師の先生がいるのですが、どうやるかをその場で決めなければいけないことも多いんです。例えば、忠実に構えようとすると、刀がスタジオの天井に当たってしまう。そんなとき、どこかで折り合いをつけて、臨機応変に対応しなければなりません。さらに、示現流はいわゆるチャンバラのように刀を合わせるのではなく、基本的に一太刀で相手を倒す“一撃必殺”のスタイル。だから、それをどう殺陣に織り込むかという難しさもありました。また、味方同士の斬り合いになるので、監督はその直前の一瞬のためらいを大切にしていました。

-ここまで精忠組のメンバーと一緒に演じてきた手応えはいかがでしょうか。

 こんなに一緒にいることになるとは、思ってもいませんでした。ただしその分、気付いたことをお互いにアドバイスするなど、探り合いながらやってこられました。そのうち、役割分担みたいなものが見えてくると、最年長の僕に何ができるか考えるようにもなり…。大山を演じる立場上、真ん中でみんなを引っ張って行かなければいけないし、多少なりとも説得力がなければいけませんから。とはいえ、時間はたくさんあったので、自然とそういうところに入っていくことができました。

-最近は深刻な雰囲気ですが、江戸編あたりでは高橋光臣さん(有村俊斎=海江田武次役)と一緒に伸び伸びと演じて、楽しい場面も多かったですね。

 僕も高橋くんも、そういう役どころになるとは思っていませんでした(笑)。でも、やるならとことんやろうと。どんなことをしても「イメージと違う」と言われるときは言われますし、それだけ注目されるドラマに出られるのは幸せなこと。気にせず振り切って、にぎやかなときはとことんにぎやかに、シビアなところはとことんシビアに。高橋くんと相談しながらでしたが、それが結果的に伸び伸びとしているように見えたのであれば、うまくいったのかもしれません。

-そういうお芝居については、ご自分の中でイメージを固めた上で演じるのでしょうか。

 全体のバランスを考えて、周りの出方もうかがいます。理性的だったり、カチッとした芝居をする人が多い場合、僕は逆をやり、本能的な芝居をする人が多い場合はカチッとした芝居をしてみたり…。ただそれは、計算というより、役者としての生存本能みたいなもので、無意識でやっていることが多いです。

-自分一人の考えだけではできないということですね。

 芝居は、役の関係性の中で作用、反作用があってこそ生きてきます。だから、自分のことよりも、どうしたら相手がせりふを言いやすくなるか。常にそれを考えています。例えば、大久保(瑛太)の結婚話が出たとき(第13回)、僕がその相手の悪口を言った後、大久保が「なんてことを」と反論する場面がありました。そのとき、ただ悪く言うのではなく、思い切りばかにしたようなひどい言い方をする。そうすると、瑛太くんが「なんてことを!」と言いやすくなるんです。そういうところが、芝居の面白さです。

-アドリブも多いと聞きましたが、それが生き生きとした雰囲気につながっているようにも感じます。

 そうかもしれません。ただ、方言があるので、アドリブも簡単ではないんです。標準語なら自由にできても、方言の場合は事前にことば指導の方に確認する必要がありますから。とはいえ、自由だとやり過ぎる場合もあるので、方言があるぐらいがちょうどいいのかもしれません(笑)。面白いのが、台本通りで誰もアドリブを言わない時。場が静まり返って、みんな心細くなるんです。「誰かなんか言って!」みたいな雰囲気で(笑)。アドリブはちょっとした芝居の香りづけなので、的外れなことさえ言わなければ、いろいろやってみた方がいいというのが、僕の考えです。

-新たに吉之助の弟・信吾(錦戸亮)が登場するなど、今後は若者たちが加わって大山の立場も上がっていくようですが、お芝居も変わってくるのでしょうか。

 そうですね。立場や相手によって向き合い方が変わるので、そういう多面性は出てくると思います。下の者にはビシッとした姿を見せる一方で、仲間たちと会ったときには同窓会のような感じで、肩書や立場を捨てて一緒に酒を飲む…。そういうギャップは、おのずと出てくると思うので、僕も楽しみにしています。

(取材・文/井上健一)