「テックカンパニーとして世界を目指す」と上場の抱負を語る山田進太郎会長 兼 CEO

今年最大の新規株式公開(IPO)として注目を集めていたメルカリが、6月19日に東京証券取引所マザーズに上場した。初値は公募価格の約1.7倍となる5000円をつけ、終値は5300円。時価総額は約7000億円となり、市場からの期待を証明した。同日夕方に開催された上場会見では、経営陣から上場後の戦略が語られた。

「テックカンパニーとして世界を目指す」。挨拶もそこそこに山田進太郎会長 兼 CEOは上場後の抱負を宣言した。以前から“テックカンパニー”、“世界”というワードは常々語られてきたが、収益の大半を占める国内事業より先に話題にあげたのは、不退転の覚悟の表れであるように感じた。上場で得た資金の重点的な投資領域にも、「海外・テクノロジー・人材」をあげる。

米国の赤字解消は通過地点 目標は世界規模のマーケットプレイス

メルカリは2014年9月に米国版「メルカリ」をローンチし、海外進出を果たした。日本でのサービス開始が13年7月なので、およそ1年しかタイムラグはない。メルカリにとって海外ビジネスは創業当初から意識されていたものだったことがわかる。

しかし、海外事業は日本ほど成功を収めることができていないのが実情だ。日本ではセンセーショナルなサービスとして受け止められたメルカリだが、同様のサービスは米国には数多く存在する。日本企業がすぐにシェアを奪えるほど甘くはなく、利用者数の伸び悩みは17年6月期の連結決算で計上した最終損益42億円の主要因となった。

米国のMercari, Inc.でCEO 兼 CBOを務めるジョン・ラーゲリン氏は、「就任から1年、取り組んだのは『チーム』をつくることだ」と語った。ラーフゲリン氏自身、GoogleやFacebookで実績を積んだ経歴があるが、技術や見識に長けた優秀な人材を投資を惜しまず集め、サービス基盤は整いつつあるという。

日本とは異なるブルーのコーポレートイメージを立ち上げ、認知拡大にも新たにテコ入れをする。山田CEOは赤字解消時期については明言しなかったが、「現在のペースで成長していけばそう遠い時期ではない」とコメントした。

見本とするのは、AmazonやGoogle、Facebookのようなテクノロジーでアドバンテージをもつ企業だ。「米国での成功がゴールではない。世界に通用するマーケットプレイスを創造するのがメルカリの一貫した目標。もしかすると、価値を最大化できる新興国のほうが向いているかもしれない。数十年かかるかもしれないがやる」(山田CEO)。まだ時期は未定だが、次の展開国にはドイツやフランスを有力視しているという。

国内成長のカギはテクノロジー メルカリ経済圏の構築に意欲

企業としての長期的ビジョンは海外に向けられているが、もちろん国内事業を軽視しているわけではない。小泉文明社長 兼 COOはこれからの国内ビジネスの方針として「メルカリのさらなる成長」「メルカリエコシステムの構築」をあげた。

前者で具体例としてあがったのは、ユーザー数と1人あたりの売上向上だ。小泉文明社長 兼 COOは「現時点で1日に100万点の出品があるが、まだまだ出品のハードルは高いと感じている」と語る。ここでキーになるのが、テクノロジーだ。直近の例としては6月に開始した「バーコード出品機能」がある。現在は本・ゲーム・CD・DVDに限定されるが、バーコードを読み取ると商品名や参考価格が表示される機能で、出品にかかる手間を省いてくれる。昨年、問題になった不正出品問題の対策にもAIによる検知が利用されているという。

後者の「メルカリエコシステムの構築」で、中心的役割を担うのが17年11月に設立したメルペイだ。ペイメントプラットフォーム「merpay」によって、これまでメルカリ関連のサービス内で完結していた経済圏を外部にも拡大させる。「提携したお店やレストランの支払いでメルカリに預けているお金やポイントを利用できるようになる。金融商品を購入するということもありうるかもしれない」(小泉社長)。

以前、山田CEOは「テクノロジーこそが競合を寄せつけないバリヤー」と語ったが、技術的な蓄積は一朝一夕で覆すことができないものだ。それはメルカリがモデルケースにあげるAmazonやGoogle、Facebookが証明している。メルカリがビジネスを展開する領域はまだ歴史が浅く、競争も激しい。「目先ではなく長期的な成功を目指す」とのコメントもあったが、壮大なビジョンを掲げるメルカリにとって上場はスタート地点。日本を代表するグローバル企業へと至る道のりは始まったばかりだ。(BCN・大蔵 大輔)