岡田達也  撮影:井手絵理奈 岡田達也  撮影:井手絵理奈

イギリスの喜劇作家レイ・クーニーによるコメディ舞台『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで~』が9月20日(土)、東京・PARCO劇場にて開幕する。ロンドンの大病院を舞台に、個性豊かな登場人物たちが右往左往する姿をスピーディーに描いた傑作喜劇である。主演の錦織一清を始め、ストレートプレイ初挑戦の塚田僚一、はしのえみ、瀬戸カトリーヌ、酒井敏也、土屋裕一、綾田俊樹など、キャストには抱腹絶倒の笑劇を構築するにふさわしい魅力の顔が集結。ある日の稽古場を訪ねてみた。

舞台『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで~』チケット情報

稽古場ではすでにひとりの観客が……2004年に本作が上演された際にも観ているという演劇集団キャラメルボックスの俳優、岡田達也だ。「とにかく大笑いしたことを覚えていて話の詳細はすっかり忘れていました。でも車椅子に乗った綾田さんがバンバン壁にぶつかっているのを観ていたら思い出してきた(笑)」(岡田)。

稽古場に組まれた病院のセットには、医師デーヴィッド(錦織)とレズリー(塚田)、医師ヒューバート(酒井)にデーヴィッドの妻ローズマリー(瀬戸)が対峙。愛人ジェーン(はしの)との子であるレズリーの存在をローズマリーに知られたくないデーヴィッドは、同僚を巻き込んで次から次へと嘘を重ねていくが……。とぼけた表情と絶妙の間合いで言葉を放つ錦織、その巧さが芝居全体を強力に牽引しているのがわかる。ヒューバートを本当の父親と勘違いして、はしゃぐレズリー。酒井に抱きついて頭にキスを浴びせる塚田の、思い切りのよい演技が爽快で、稽古場中に笑いが巻き起こった。その後、医師マイク(土屋)や謎の患者ビル(綾田)などが続々と登場し、事態はますます混線していく。「はい、ここまで」。演出の山田和也の声でスムーズに流れていた芝居が止まり、方々から緊張の解かれる“ハァ~ッ!”というため息が聞こえてきた。幕が開いたら後は走り切るしかない! そんなパワーがキャスト全員の姿勢から伝わってくる。

稽古の合間に、綾田、土屋、そして岡田に手応えや感想を聞いてみた。3人は、2007年にレイ・クーニーの息子であるマイケル・クーニー作『えっと、おいらは誰だっけ?』で共演した間柄だ。「共通した面白さがあるから、一度マイケル・クーニーの作品をやったことで台本に馴染みやすかったですね」と土屋。岡田は「単純にお客さんの立場で観ているとすごく面白い! 自分の時は余裕がまったくなかったので(笑)。錦織さんはしっかり全体を俯瞰して、余白を残して演じているからすごい」と以前を振り返る。綾田の「そんなのありえないよ!って嘘を押し通すアホらしさがいいよね」に土屋と岡田が大笑いで同意した。土屋の「魅力は笑いの量だと思う。どんな手を使っても笑わせていく!という潔さがありますよね」という言葉に続けて、綾田が「だから迷ったり恥ずかしがったりしたらおしまい。強い心で向かいますよ」と宣言。良質のコメディを届けようというチーム全体の意気を感じたひと言だった。観客側も集中力に磨きをかけ、笑う態勢を整えて劇場に足を運びたい。

取材・文 上野紀子