OFFICE SHIKA×Cocco『ジルゼの事情』 OFFICE SHIKA×Cocco『ジルゼの事情』

シンガーCoccoの初主演舞台『ジルゼの事情』が、劇団鹿殺しとのタッグで上演されたのは今年1月。座長・菜月チョビ留学後初の公演で、独自の世界を確立し、第一線で活躍する歌姫の舞台デビューを鹿殺しが手がけると聞き、驚く人も多かったはず。そんな衝撃の作品が9月19日、サンシャイン劇場で嬉しい再演の幕を開けた。

OFFICE SHIKA×Cocco『ジルゼの事情』チケット情報

劇団員と内田滋、ナイロン100℃の廣川三憲ら初演組に加え、Cocco演じる汁是優子(じるぜゆうこ)の妹・加奈子に『あまちゃん』での好演も記憶に新しい蔵下穂波が加わったこともトピックのひとつだろう。

幕開きは、父とともに事故死した加奈子の幽霊の語りから。汁是一家が営む渋谷・宮益坂の純喫茶マーガレットはすっかり寂れ、今はオリンピックに備えた再開発のため地上げにあっている。客は幼馴染で優子に思いを寄せる森番太郎(オレノグラフィティ)くらいだが、最近現われた役者志望の虻レ一志(あぶれひとし 内田)に優子が心奪われた様子で、森は気が気ではない。そして地上げ屋・氷室(丸尾丸一郎)の登場とともに、一同は悲劇の坂を一気に転がり落ち始める。

かつてバレエダンサーをめざしていたCoccoの発案から、古典バレエの傑作『ジゼル』を下敷きにした今作には恋と裏切り、家族の葛藤、狂気と死などドラマティックな要素が満載。丸尾の勢いある演出に乗り、起伏の激しい劇世界をCoccoは軽やかに乗りこなしていく。

冒頭、感情を押し込めて暮らすはずの優子が森相手に見せる鋭くシニカルなユーモア、追い詰められた際、懐かしい父の歌を歌いながら放心状態になる表情、後半のスナックWILLに別人格オジー・優子ボーンとなって現われてからの妖艶な仕草と強烈な歌。圧倒的な存在感と繊細な表現を兼ね備えた、恐るべき舞台女優の誕生を再認識させられる場面が続く。

また劇場が大きくなったぶん、歌とダンスのショウアップシーンも一段とエネルギッシュになり、Coccoファンの観客も満足させられる迫力をかもし出していた。

そしてラスト。傷つき、悩み、恨んだ末に優子は「赦し」を選び、自身の本心に気づき苦しむ虻レを受け入れてともに舞う。苦悩を脱ぎ捨て、素足に純白のドレスで大きく腕を広げ舞台に立つCoccoは白鳥の化身。羽ばたきの残像を観客の目に残し、舞台の闇へと飛び去った。

一転、カーテンコールでは黄色いサンダルを履いて現われたCoccoの真っ直ぐな笑顔に観客はダブル・ノックアウト。万雷の拍手に「またね!」と手を振る彼女の言葉に、約束の果たされる日を待ち遠しく思った。

東京公演は9月23日(火・祝)まで、関西公演は同27日(土)から29日(月)まで兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて行われる。Coccoは10月8日(水)、4年ぶり8枚目のフルアルバム『プランC』を発売。鹿殺しは2015年1月中旬に充電明け復活公演を予定している。

取材・文:尾上そら