(C)2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

 82歳のウディ・アレン監督の新作『女と男の観覧車』が公開された。

 舞台は1950年代のニューヨーク、コニー・アイランド。遊園地でウエートレスとして働くジニー(ケイト・ウィンスレット)は、再婚した夫(ジム・ベルーシ)と、自身の連れ子と共に暮らしていたが、海水浴場でライフガードのアルバイトをする大学生のミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と浮気をする。

 元女優のジニーは平凡な毎日に失望し、ミッキーとの未来を夢見るが、そこに夫の娘のキャロライナ(ジュノー・テンプル)が現れて…。

 原題の「Wonder Wheel」は、ジニーの家の窓から見えるコニー・アイランドの観覧車の名前。眺めはいいが、いつも同じ場所を回転しているだけで、決して別の場所に行くことはできない、という意味で、ジニーの立場と重なり、象徴的なものとして映る。

 そんな本作は、撮影を名手ビットリオ・ストラーロが担当し、かつて『ワン・フロム・ザ・ハート』(82)で、セットと照明を使ってラスベガスを“人工の美の街”として表現したように、今回も、光と影、暖色と寒色のコントラストを生かして50年代のコニー・アイランドの雰囲気を見事に再現している。

 ところで、ウィンスレットは、これまでのイメージを覆すような熱演を見せるが、安定を願いながら刺激を求め、真実の愛に憧れながら刹那的な恋に溺れ、ここではないどこかに、もっといい人生が待っているはずと思い込み、自分勝手な行動を取るジニーの姿に、感情移入ができるか否かが、本作に対する好き嫌いの分かれ目になるだろうと思う。このような矛盾と皮肉に満ちた、一筋縄ではいかない登場人物は、アレン映画に共通するものである。

 また、かつてアレンは『アニー・ホール』(77)で、自ら観客に向って話し掛けることで“第四の壁”(観客と画面の間に存在する透明な壁)を破ってみせたが、今回もミッキー役のティンバーレイクが、観客に語り掛けながら、狂言回し的な役割を果たしている。そのおかげで、全体的には暗い話であるにもかかわらず、悲喜劇を見ているような印象を受ける。

 加えて、アレンの映画は、ジャズのスタンダードなど、既成の曲の使い方のうまさが目立つが、今回も名曲「林檎の木の下で」などが大いに効果を上げている。つまり、本作はその端々にアレンらしさが感じられる映画なのだ。

 クリント・イーストウッド、山田洋次、そしてこのウディ・アレン…。80を越えて、いまだ枯れない彼らの創作欲には本当に頭が下がるし、また次回作が見たくなる。(田中雄二)