鈴木京香  撮影:加藤孝 鈴木京香  撮影:加藤孝

「この泥棒猫!」という罵声はひと昔前の映画や小説などで見聞きすることはあるが、「この泥棒鼬(いたち)ッ!」というのも強烈なインパクトがある。そんな台詞を投げつけられるのが、『鼬』に出演する鈴木京香。『太陽の子』などで知られる昭和の劇作家・真船豊の代表作を、長塚圭史の演出で上演する。昭和初期の東北の寒村を舞台に、財産目当ての人間たちのどす黒い思惑がうごめく近代劇の名作だ。成熟した大人の女性の色香を漂わせる鈴木が〈泥棒鼬〉とは、そのギャップも興味深い。

舞台『鼬 いたち』チケット情報

落ちぶれた田舎の旧家が借金のカタに取られることになり、そこに現れたのが鈴木扮する〈おとり〉。若い頃に故郷を飛び出し、今ではすっかり羽振りがよくなっている。いわくつきの女が戻ったことで相続問題は二転三転するのだが、おとりを忌み嫌う義理の姉(白石加代子)やその息子(高橋克実)を軽くあしらう胆力とバイタリティの持ち主だ。「出てくる人間が誰も彼も柄が悪いんです(笑)。でも、貧しい暮らしの中で人々が生き生きと描かれていますし、醜いところもあるけれど本能的な人間の力強さを感じて、ぜひやらせていただきたいと思いました。おとりは自分の〈悪〉の部分も隠さない、ある意味では自分に正直な人間。それは女が生き残っていくための手段としての強さでもあると思いますし、泥臭く、ねちっこく、必死に生きる人間を生々しく演じたいですね」

台詞は全篇東北弁。「方言を使うお芝居がしたいと思っていた」という自身の願望にもぴったりだった。今回は福島・郡山地方の言葉で、宮城県出身の鈴木からしてもイントネーションや言葉遣いは全く違うという。「でも修練さえすれば、方言のほうが描かれたキャラクターや感情が伝わりやすい面があると思います。東北を舞台にした井上ひさしさんのお芝居や、宮沢賢治の朗読劇を経験した時に、そう実感して。かえって稽古場で照れることなく、ダイナミックにトライできた気がします」

昨年末はジャン・コクトー作、三谷幸喜演出による一人芝居『声』に挑戦した。数年に1本ペースで舞台に出演してきたが、2年連続で年末は舞台の上にいる。「一人芝居を乗り越えてみたら、『これを経験したんだから何が来ても大丈夫』と思えるようになりました。芸達者な方たちに混じって足を引っ張るのでは、という不安を感じないわけではないんですが、怖さよりも楽しみが大きいんです。ほかの方のお稽古を観られるのも嬉しいですね。一人芝居ではそれができませんでしたから(笑)」

12月1日(月)から28日(日)まで、東京・世田谷パブリックシアターにて。チケットの一般発売は10月11日(土)午前10時より。現在チケットぴあではインターネット先行先着「プリセール」を実施中、9月30日(火)午後11時59分まで受付。

取材・文:市川安紀