片岡愛之助、楳図かずお監督

独特の作風で“信奉者”と呼ぶにふさわしい熱烈なファンを持つ漫画家・楳図かずおが初めてメガホンを握った映画『マザー』がまもなく公開となる。自身の著作を原作とするのではなく、自叙伝的に自らの創作の原点を描いた本作で主人公の漫画家・楳図かずおを演じたのは歌舞伎役者の片岡愛之助。今年公開の日本映画の中でも随一の異色のタッグを組んだふたりに話を聞いた。

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怪奇ホラーにSF、ギャグ漫画まで幅広いジャンルで展開する楳図ワールドはどのようにして生まれたのか? 楳図の母親の存在に焦点を当て、ホラー仕立てでその“謎”を解き明かしていく。

なぜ楳図かずお役に愛之助を選んだのか? 楳図は「最初は全く考えていなかった」と明かすが、愛之助の名が候補に挙がると「それは面白い!」と感じたという。「出演する役者さんも物語も『そりゃそうだよね』と思われるものではなく、なりそうもないところに焦点を当てて作っていく。それがものづくりの苦労であり醍醐味。そこに違いや幅の広がりが生まれるんです」。

「先生の漫画で育った世代」と自認する愛之助にとっても“楳図かずお役”は寝耳に水だった。「え? まさか自分が…という感じで、即お断りさせていただきました。先生のように細くないし似てないしムリですよ! と。でも先生を演じるのではなく『楳図かずおという漫画家を演じてほしい』と言われ、それならと出演させていただいたんです」。

数々の著作同様に本作もまた「恐怖」を描いている。「お化け屋敷がそうだけど、単に脅かすだけなら簡単。角を曲がった所にいたり、トイレで下からのぞいていたり、ありえない状況でやにわに何かが出てくれば怖いんです。でもそればかりじゃ質が低い。より人間性を追及したところを根拠にして生まれるものこそ本当に怖いんだと今回、実感しました」と楳図は本作の怖さに手応えを口にする。

愛之助も歌舞伎でいくつもの怪談物に出演してきたが、楳図作品の独特の怖さをこう表現する。「どこまで本当なのか? (役の)楳図かずおの経歴、ご両親の遺影代わりにお皿を飾っているのも本当の話なんです。では何が嘘なのか? 分からないままに僕らは弄ばれているんです(笑)」。一度見たら忘れられないあの画風とはまた異なる映像による表現の中に、しかし「楳図ワールド」はしっかりと継承されている。

『マザー』
9月27日(土)より新宿ピカデリーほか全国にて公開

取材・文・写真:黒豆直樹

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