『奇跡の人』稽古場より 『奇跡の人』稽古場より

三重苦のヘレン・ケラーと家庭教師アニー・サリバンの出会いと成長を描く『奇跡の人』。幾度となく上演されてきた名作がこの秋、気鋭の森新太郎による新演出でよみがえる。このたび行われた公開稽古後に、サリバン役の木南晴夏とヘレンを演じる高畑充希に話を聞いた。

舞台『奇跡の人』チケット情報

公開稽古では、サリバンがヘレンの元にやってきて指文字を教えようとするが、ヘレンが思いのままにならないサリバンを閉じ込めてしまうシーンが行われた。たった5分ほどの間に、持っていた人形で力いっぱいサリバンを殴打するヘレン、暴れまわるヘレンを力づくで抑えようとするサリバンと、全力の取っ組み合いが展開される。迫力あるふたりの格闘ぶりに、取材陣も息を呑んだ。しかし木南、高畑のふたりによれば、このシーンはまだまだ序の口。もっと激しくぶつかり合うシーンがたくさんあるのだという。

「ヘレンは全然かわいそうじゃないところが好き」と笑う高畑。「ピュアだけれど、性格の悪い怪獣。私も演じる前は『目が見えず耳が聞こえなくてかわいそうな女の子』という印象を持っていたけれど、実際にやってみるとこんなにもやりたい放題の子はいない」とヘレンの印象を語る。一方の木南が話すサリバンも「教師ということもあり、達観している大人だと思っていた。けれどすぐむきになる、人間としてまだまだできていない少女です」。一般的な「かわいそうなヘレンと、彼女を導くサリバン」というイメージから遠く離れた、人間らしいふたりが観られそうだ。

森新太郎の演出について、「昨日、急に指示されて関西弁でサリバンをやってみたのが楽しかった」という木南。関西出身の彼女にとって、地元の言葉でサリバンを演じてみるという稽古は肩の力を抜くのにぴったりだったのかもしれない。「まだまだ余裕がないけれど、もっと弱くもっと強く、調子に乗りすぎちゃうくらいのサリバンになれたら」。一方の高畑は5年前に引き続きヘレン役を続投。「前作はコミカルな動きをするところがあったりして、メリハリのあるフィクションぽいつくりの芝居だった。森さんはよく『リアルに』とおっしゃるんです。今回はその言葉に忠実に、ヘレンの気持ちを繊細に表現したい。セリフがない役ですから、気持ちを入れず身体だけ動かすとすごく疲れる。『こうしたいからこう動く』という思いで、毎日新鮮に演じたい」。若手実力派のふたりが全力で挑む舞台。その激闘をしっかりと見届けたい。

公演は10月9日(木)から19日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場、10月21日(火)大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。チケット発売中。

取材・文/釣木文恵