新国立劇場2017-18シーズンオペラの最後を飾るのはプッチーニの人気作《トスカ》。アントネッロ・マダウ=ディアツ演出による舞台は、2000年9月の新制作初演以来、繰り返し上演されている、劇場の看板プロダクションのひとつだ。公演の指揮者には、「天才」の呼び声も高いローザンヌ出身の28歳の俊英ロレンツォ・ヴィオッティが起用された。

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実は2000年のこのプロダクションの初演指揮者マルチェロ・ヴィオッティは彼の父親。その父が2005年に50歳で早逝した時、彼はまだ14歳だった。「そこで私の人生は1度終わり、そして始まったのです。というのは、もし父が生きていたら、今こうして指揮者になっていたかどうか。父が亡くなったことで、自分の道を自分で選んで決断する自由を与えられたと思っています。今回、父と同じ演目を指揮することは、時を超えて父とつながるようで幸せです。しかし一方で興味深いのは、私たちの解釈がまったく異なるということ。昨晩、2000年の映像を見せてもらいました。そこで聴いたのは、非常に伝統的な、歌手のために誇張されたカリカチュアのような《トスカ》でした。いたるところにルバートがあり、それはトゥーマッチです。プッチーニはチョコレートのように甘い音楽を書いたわけではありません」

よりスコアに忠実にというアプローチは、師のジョルジュ・プレートルから大きな示唆を受けている。「プレートルの《トスカ》は、スコアにとても忠実で、歌手に余計なスペースを与えていません。勝手に『解釈』するのでなく、作曲家の書いたスコアのしもべとなったうえでマジックを起こす人でした」

今回《トスカ》を初めて指揮するにあたって、スコアをゼロから見直した。「歌い上げるのではなく、ほとんどが会話で成立しているようなオペラです。だから無理に盛り上げず、抑えたほうが効果があるのです。すべてはスコアに書いてあるのですから」

そういうと彼は《トスカ》のドラマ構造を、調性や音程関係から分析してくれた。詳細は割愛するが、たとえばオペラ冒頭の3つの和音の連結(変ロ長調-変イ長調-ホ長調)は、多くの解説が「スカルピアの主題」と論じるところだが、彼はそうではないという。また、「神」という単語に対応する変ロ長調の使用を重要と指摘する、新鮮な、しかし非常に興味深い解釈は彼独自のものだ。

真面目に静かに語る知的な口調はとても魅力的。何か新しいものを見せてくれそうな予感に満ちている。観客にも、「オペラには伝統的な約束ごとなどない。ぜひ予期せぬ体験をしてほしい」と語る。その言葉どおり、予期できない、新しい《トスカ》が見たい。

新国立劇場《トスカ》は7月1日(日)・4日(水)・8日(日)・12日(木)・15日(日)の5公演。また、提携公演として、7月21日(土)・22日(日)に滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホールでも公演が行われる。

取材・文:宮本明