左から、中村七之助、中村勘九郎  撮影:源 賀津己 左から、中村七之助、中村勘九郎  撮影:源 賀津己

十七世中村勘三郎と、十八世中村勘三郎の追善興行が、10月の歌舞伎座、11月の新橋演舞場と2か月連続で行われる。しかも新派での歌舞伎俳優の追善興行は初の試み。そこで新派公演に初めて挑む中村勘九郎、中村七之助の兄弟に話を訊いた。

歌舞伎と新派の連続での追善公演は、父である十八世の念願だったと語るふたり。幼いころから父や伯母の波乃久里子の舞台に触れてきた彼らにとって、新派も歌舞伎と同じく、非常に魅力あるものとして映っている。そんな新派について勘九郎は、「物語がストレートで非常に分かりやすい。特に朝ドラが好きな人にはドンピシャだと思いますよ」とアピールする。

ふたりが今回主に演じるのは、新派の代表作のひとつであり、また十七世、十八世にも所縁が深い『鶴八鶴次郎』。厳しい芸の道を歩む男女の切ない恋物語であり、勘九郎いわく「キュンキュンくる芝居」。初役として勘九郎が鶴次郎を、七之助が鶴八を演じる。それぞれ役の核にしたいことを尋ねると、「うちの父の鶴次郎を観た時にも感じたことですが、少年っぽい純粋さですね。あとは鶴次郎独特の頑固さと優しさ」と勘九郎。また七之助は「やはり鶴次郎に認めて欲しいと願う心だと思います。恋心はもちろん、芸事への憧れが鶴八は強い。それは同じ芸事をやっている自分にも通じることで、いくら僕の本名が好きでも芸を嫌われたら、やっぱり自分を全否定されているような気持ちになると思うんです」と、役と自らをリンクさせ、分析する。

父の死後、若くして中村屋を牽引することになったふたり。追善興行を前に、改めて十七世、十八世の偉大さを噛みしめている。「やっぱりうちの父は、観客だけでなく、スタッフや役者をも魅了する力、巻き込む力がすごかった。それは役者が必ず持っていなきゃいけない、大きな魅力だと思います」と勘九郎が言うと、七之助も「残念ながら僕は祖父の記憶がほとんどありません。でも先輩方の思い出話を聞くと、本当に愛された人だったんだなと。うちの父以上に人間っぽいというか。そしてそんな祖父や父のことは、僕たちが言うまでもなく、皆さま一人ひとりの胸の中に今もあると思います」と続ける。

歌舞伎のため、また新派のために「僕らは魅力的なものをつくり続けなければいけない」と語る勘九郎。しかもこの追善興行は先代の思いも注がれている。舞台上のふたりを通して、十七世、十八世の姿をも感じられるであろう本作が、魅力的でないわけがない。

「歌舞伎座十月大歌舞伎」は10月25日(土)まで上演中、「十一月新派特別公演」は11月1日(土)から25日(火)まで。ともにチケット発売中。

取材・文:野上瑠美子