ソフトバンクは7月1日に開催したhandy Japanとの共同記者会見で、同社に第三者割当増資を実施して資本業務提携すると発表した。これによって、handy Japanが展開する宿泊施設向けスマートフォン(スマホ)のレンタルサービス「handy」を利用して、ホテルビジネスの再定義を目指す。 世界82か国・地域でサービスを展開する「handy」の日本におけるローンチは1年前。最高経営責任者の勝瀬博則氏によると、この1年で事業は急速に拡大しているという。すでに国内ホテルの約30%(24万室)が採用し、東京に限定すると導入実績は約6割にのぼる。

「handy」を利用するのは訪日外国人だ。サービスに加入している宿泊施設は、インターネット接続、国内外への電話、多言語による周辺の観光案内の機能を備えたスマホを客室に設置。宿泊客は無料でこれらのサービスを利用できる。宿泊施設が支払う料金は1端末あたり月額980円からと、導入側にとっても低コストというメリットがある。機能拡充も図っており、今後は提供しているhandy全端末の無料テザリング化も予定している。

勝瀬氏がソフトバンクの協業に期待するのは、通信サービスやビッグデータ活用の基盤となるIoTプラットフォームを活用した新サービスの開発だ。handyの機能を拡張し、宿泊施設と宿泊者に「スマホ以上の価値」を提供するのが狙いだ。勝瀬氏は、「Hotel IoT」「Travel Agent」「Media」の三つのビジョンを掲げる。

Hotel IoTとは、handyと既存のホテルシステムを連携することで、スマートロック、無人チェックアウト、精算業務の自動化を意味する。Travel Agentは、宅配・配車・決済などのサービスと連携することで、宿泊者の利便性向上を目指すというものだ。Mediaは、handyのプロモーション利用を指す。ソフトバンクのIoTプラットフォームとhandyが取得する情報を結びつけて、デジタル広告やクーポンの提供機会を創出するわけだ。

ソフトバンクの宮内謙社長執行役員兼CEOは、「スマホではなく、IoTプラットフォーム」とhandyに対する期待を語る。iPhone上陸から10年。ポストスマホはいまだ不在だが、スマホそのものの役割は当時と比較にならないほど拡張している。同社は従来から「スマホ時代からIoT時代へ」という指針を示している。「ホテルビジネスについて詳しいわけではないが、IoT時代に影響を受けない業界はないだろうというのがわれわれの考えだ」(宮内社長)。

ソフトバンクはサービス開発だけでなく、営業面でもhandy Japanと協力体制をとる。全国の法人営業やSEがホテルに提案し、地方でも導入シェアを加速させる。勝瀬氏と宮内社長は売上目標を問われ、「当面は売り上げよりも、導入するホテルの拡大を優先する」とほのめかす。訪日外国人がピークを迎えるであろう2020年に照準を合わせ、サービスの基盤構築を急ピッチで進めていけば、自ずと売り上げが伸びるということだろう。(BCN・大蔵 大輔)