『愛しのゴースト』(C)2013 Gmm Tai Hub Co.,Ltd. All Rights Reserved.

タイで歴代興行収入ナンバー1を記録した映画『愛しのゴースト』が日本でも公開されている。タイでは誰もが知っている怪談を描いた作品だが、本作は幅広い層の観客の支持を集めた。本作の魅力は一体、どこにあるのか? アジア映画の造詣が深い映画史・比較文化研究家の四方田犬彦氏は本作が盛り込んだ新たな要素が観客を魅了したと分析する。

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本作は、日本の『四谷怪談』や『牡丹灯籠』のような“定番”としてタイの人々から愛されている“メ・ナーク プラカノーン”を再び映画化した作品だ。マークとナークという仲のいい夫婦が暮していたが、マークが戦争に出征して戻ってくると、村人たちは「ナークはすでに死んでいて、幽霊になってこの地にとどまっている」という。マークは妻を深く愛しているため、聞く耳をもたないが、村人たちは「実は死んでいるのは戦地にいった自分たちでは?」と思い出し、誰が生きていて、誰が幽霊なのかわからなくなっていく。

この物語は、映画だけでなく、大衆演劇、コミック、アニメなど様々なジャンルで繰り返し語られてきたが、四方田氏は本作は「コミックな要素を強調したこと」が新しいポイントのひとつだという。「マークの戦友たちが“お笑い三人組”ならぬ“四人組”となり、本来は不気味きわまりない幽霊物語に、巧みにギャグの要素を持ち込んでいる。お汁粉を拵えるとき、最後にちょっと塩を加えると、とたんにグッと甘みが増すというのと同じ要領である」。また、オリジナルの物語に登場するナークに説教を授けるお坊さんが本作ではいないことが「このシリーズにおいて最初のことであり、新解釈だといわざるをえない」と語る。

四方田はさらに「これがもっとも重要なことなのだが、物語のラストで描かれる寛容の哲学である。それは実のところ、今日の世界がもっとも必要としているものだ」といい、「寛容の哲学に共感していればこそ、タイの観客たちは映画館に足を運び、このフィルムを大ヒットさせたのである」と分析する。タイの観客を魅了した“誰もが知っている新たなドラマ”が日本の観客にどう受け入れられるのか気になるところだ。

『愛しのゴースト』
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