深井順子  撮影:藍 深井順子  撮影:藍

女優の深井順子が主宰を務め、糸井幸之介が作・演出・音楽を手掛けるFUKAIPRODUCE羽衣。胸打つ歌詞と一度聞いたら忘れられない音色に乗せて役者が歌い踊る“妙ージカル”を上演してきたこの劇団が10周年を迎え、青山円形劇場で『よるべナイター』を上演する。主宰の深井に話を聞いた。

FUKAIPRODUCE羽衣『よるべナイター』チケット情報

「糸井君とは高校の同級生で、つきあいは20年以上。大学時代に組んでいた糸井君主宰の劇団は、団員たちの卒業をきっかけに解散してしまった。でも私は彼の作品に出続けたかったんです。それで自分が主宰になろうと決めました」。そんなFUKAIPRODUCE羽衣の10年間を「あっという間」と語る深井。「私はミュージカルをやりたいなんてひと言も言っていないのに、いつの間にか歌い踊るようになっていた。女性だけの団体にしようとしていたのに、気が付けば男女半々で性について描いたりしている。でもいつも間違いなく面白いんです」。その言葉からは深井の、糸井に対する並々ならぬ信頼が垣間見える。

『よるべナイター』は2007年に上演した作品の再演。深井たちは、野球をモチーフにしたこの作品を、いつか青山円形劇場でやってみたいと考えていたという。「再演なのに、糸井君はぜんぶ書き直してしまうんです。そのうえ、彼が別の作品に出演しているので今回初めて私が演出を担当しているんです。『この人はいま悲しくて……』なんて感覚的な言葉を使ってしまうので最初は特に男優陣が戸惑っている様子もあったけれど、次第に伝わるようになってきた感触があります」。

今作でもっとも目を引くのが「野球指導:古田敦也」のクレジット。「みんなに『あの古田?』と聞かれます」と深井も笑う。「私がNODA・MAPに出演したとき、古田さんが観に来てくださったのがきっかけです」。くしくも深井家は全員ヤクルトファン。年間何日も試合を観に行く父の影響で、深井自身もファンクラブに入り古田グッズやCDを買い込んでいたほど。「羽衣の話をしたら観に来てくださるようになった。ある公演のとき『雪合戦のシーンの雪玉の投げ方がおかしい』とアドバイスをくれたんです(笑)。それで思い切って今回お願いしました。父が生きていればどれだけ喜んだか! といっても『どこを指導したの?』と言われてもおかしくない芝居ですから、お手柔らかに観ていただければ」。

独りごとのようなセリフの応酬のなか、突然歌と踊りが始まるエキセントリックな展開の“妙~ジカル”。しかし同時に、誰もがふと感じることのあるやるせない気持ちに寄り添ってくれるやさしさも持つ。「いろんな方に観ていただきたい。私自身は羽衣があるから生きていける、“救い”のような存在なんです。観てくださる方にとっても、『この時間楽しかったな、元気になったな』って思われる劇団になりたいと思います」

公演は10月30日(木)から11月2日(日)まで東京・青山円形劇場にて。「スタメン公演」と「代打公演」の2種類が上演される。チケットは当日引換券を各公演前日23:59まで受付中。

取材・文/釣木文恵