ホセ・カレーラス ※オペラ《裁判官》より ホセ・カレーラス ※オペラ《裁判官》より

2007年にルチアーノ・パヴァロッティが世を去り、最近はプラシド・ドミンゴがバリトン役を歌うなど、1990年代に世界中を熱狂させた「三大テノール」の中でいまも“現役テノール”なのが最年少のホセ・カレーラスだけというのは、時の流れの必定とはいえ寂しい限り。今年4月、そのカレーラスがなんと12年ぶりにオペラの舞台に立った。

ホセ・カレーラス テノール・リサイタル2014「郷愁」の公演情報

カレーラスが出演したのは、4月26日、29日、5月2日にスペイン・ビルバオのアリアガ劇場で世界初演されたクリスティアン・コロノヴィツ作曲の新作オペラ《裁判官 EL JUEZ》(同劇場とオーストリアのチロル音楽祭の共同製作)。コロノヴィツは映画・ミュージカルの作曲やポップス・アーティストの共演オーケストラの指揮などマルチに活躍するオーストリア人音楽家で、ウィーン・フォルクスオーパーで再演を重ねている人気の子供向けオペラ《アントーニアと野獣》(2009年)も彼の作品だ。

新作《裁判官》は、フランコ政権時代のスペインで教会や病院が多数の新生児を組織的に誘拐していたとされる実在の「盗まれた子供たち」事件をベースにしたオペラ。主役の元孤児の裁判官役を熱演して公演を成功に導いたカレーラスに、世界中から押し寄せたファンがスタンディング・オベーションで大きな拍手を贈り、スター・テノールのオペラ復帰を祝福した。8月にチロル州のエルル祝祭劇場での同作オーストリア初演にも出演したカレーラスだが、これがキャリア最後のオペラとなるのか、はたまたこれを機にオペラ活動が再燃するのか、今後が注目される。

カレーラスのオペラ出演に関しては、2009年に英『タイムズ』紙がオペラ引退宣言を報道し、カレーラス側がすぐに否定するというちょっとした「事件」があった。しかしカレーラスのオペラ出演は2002年ワシントン・オペラの来日公演《スライ》(ヴォルフ=フェラーリ作曲)が最後だったから、ファンの多くは暗黙の了解として実質的なオペラ引退を覚悟していたはずだ。それだけに今回のオペラ復帰は驚きだった。

ほぼ毎年来日して、独特の愁いを帯びた情熱の歌声を聴かせてくれるカレーラス。今年も11月29日(土)に東京・サントリーホールで「郷愁」と題するリサイタルを行なう(共演:ロレンツォ・バヴァーイ[ピアノ])。リサイタル翌週の12月5日(金)が68歳のバースデイ。その歌には、齢を重ねるごとにいっそうの魅力が刻み込まれている。

文・宮本明


◆ホセ・カレーラス テノール・リサイタル2014「郷愁」
11月29日(土) 18:00開演
サントリーホール 大ホール (東京都)
共演:ロレンツォ・バヴァーイ(ピアノ)