来日時にインタビューに答えたアハロン・ケシャレス(左)&ナヴォット・パプシャド(右)監督

あのクエンティン・タランティーノが2013年の私的ベストテン1位に選定し、世界的な脚光を浴びた『オオカミは嘘をつく』。22日の日本公開を前に来日したアハロン・ケシャレス&ナヴォット・パプシャド監督に話を聞いた。

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まず注目すべきは、本作がイスラエル映画だということ。ケシャレス&パプシャドが2010年に放ったデビュー作『ザ・マッドネス/殺戮の森』は、政治色の濃い映画が目立つ同国で初のスラッシャー・ホラーと言われている。2作目の『オオカミは嘘はつく』は、少女殺人事件の容疑者、被害者の父親、悪徳刑事の3人を主人公にしたクライム・スリラーだ。

これは単に過激なプロットやバイオレンスを売りにした映画ではない。例えば、序盤に被害者の首なし死体が発見される設定にも、描きたいテーマや感情を効果的に表現するための確かな狙いがある。「この映画のモチーフは“目には目を”の復讐だ。父親と刑事に容疑者をとことん追いつめる動機を与え、これがいかに重大な事件かを観客に感じさせたかった」(パプシャド)。「愛する我が子を失った遺族にとっては、首がなくては通常の葬儀さえ行えず、まったく心の慰めが得られない。それほどまでに強い悪意を持つ犯人なんだ。“首がない”理由を、こうして日本で説明できて嬉しいよ(笑)」(ケシャレス)。

はたして3人のうち、最も凶暴な“オオカミ”は誰なのか。地下室を舞台にした濃密な心理戦に引き込まれた観客は、予測困難な展開とクライマックスの衝撃的などんでん返しに息をのむはめになる。ケシャレスいわく「3人の誰かの身に起きた悲劇が、他の人物にも起こる。そんな“血の循環”がめぐりめぐって意外な形で閉じる、という構成にしたかった」。パプシャドが付け加える。「これは“執着”についての映画でもある。登場人物は職務や復讐に執着しすぎて、普通の日常と大切な家族を失ってしまうんだ」。

本作の成功をきっかけにハリウッド進出が決定したふたりは、ジョニー・トー監督作品『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』のリメイクを手がける予定だという。「コーエン兄弟の方向性を見習って、僕らもSFやコメディなど多彩なジャンルに挑戦していきたい」(ケシャレス)。イスラエルから世界へ、その確かな一歩を踏み出した才能から目が離せない。

『オオカミは嘘をつく』
11月22日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開

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