『天才スピヴェット』を完成させたジャン=ピエール・ジュネ監督

『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督の最新作『天才スピヴェット』が間もなく公開になる。これまで数々の傑作をおくりだしてきたジュネ監督は、世界各地に熱狂的なファンをもつ映像作家だが、本作では「新しいことにチャレンジしたかった」という。

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映画は、弟の死を機に家族がバラバラになってしまい「自分がいなくなればよかった」と考えている天才少年のスピヴェットが、権威ある科学賞の授賞式に出席するため、家族に内緒でアメリカを横断する様を描いている。

本作はライフ・ラーセンの小説が原作になっているが、ジュネ監督は「この小説を映画化することで、今まで自分がやったことがない新しいことにチャレンジできると思った」と振り返る。「英語のセリフで撮影すること、アメリカの大自然をロケで撮ること、感情というものに真正面から向き合うこと、そして原作本の余白に描かれた絵を3Dを使って描くこと……今までやったことがない新しいことができると思ったのです」。

その中でも“3D撮影”は監督の中で大きなウェイトを占めていたようだ。「私は子どもの頃から“ビューマスター”という立体視の玩具で遊んできたので、3Dに親しみがあるし、立体視が大好きだったんです。この映画では最初から3Dで撮影することを前提に脚本を書いたし、ストーリーボードも作成しました。iPhoneの中にストーリーボードを全部入れておいて、撮影現場ではすぐに見せて説明できるようにしたのです」。そこまでして監督が3Dにこだわったのは単に“美しい3D映画”を撮ろうとしたからではない。「もちろん、3Dではカメラに変な光やノイズが入ってしまうと観ていて頭が痛くなってしまうから、そのような部分は徹底的に修正して、頭が痛くならない3D映像にしました。しかし、私が最も興味があったのは、3Dの美しさや面白さではなく、3Dを使って“今までにない映画表現をすること”でした。そのことがずっと念頭にありましたし、そのために研究や実験もしました」。

監督の語る通り、本作では3D技術を駆使して、今までにない映像表現とストーリーテリングに挑んでいる。それは、奥行きや没入感を感じさせるだけでなく、観る者の想像力を刺激し、登場人物の感情をより深く表現するための3D表現だ。ジュネ監督は「私の仕事は例えるなら料理のシェフのようなもの。まずは自分が食べて美味しいものを作りたいと思うし、自分を第一の観客だと思っている」と語るが、『天才スピヴェット』の新しい3D表現を日本の観客がどう観るのか気になるところだ。

『天才スピヴェット』
11月15日(土)よりシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開