今年のNHK音楽祭の中でも特に注目されるのが、サイモン・ラトル&ロンドン交響楽団のコンビ初来日だ。ラトルは、ベルリン・フィルのポストを経験後、別の常設オーケストラの音楽監督に就任した史上初の指揮者。つまり我々は、歴史上初めて“ベルリン・フィルの先”を体験することになる。

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英国リヴァプールに生まれたラトルは、バーミンガム市響を世界的な楽団に育て上げ、2002年から2018年にはベルリン・フィルの芸術監督として活躍。2017年9月、ロンドン響の音楽監督に就任した。彼は、常にクリエイティブな発想をもって、明晰かつ生気に溢れた音楽を創造する世界きっての名指揮者。しかし首都ロンドンの楽団を率いるのは生涯初となる。今年まだ63歳で指揮者としてはこれからが円熟期だけに、母国の雄とのコラボに熱視線が注がれている。

1904年に創設されたロンドン響は、英国五大オーケストラの中でも最上位に位置する名門。世界トップクラスの高性能集団であると同時に、指揮者の持ち味に即したサウンドを奏で、『スター・ウォーズ』の華麗な響きも生み出すなど、柔軟な対応力を有している。すなわち今回は、最上の経験値をもつラトルの意図が隅々まで反映された、最高級の音楽が期待される。

プログラムも実に興味深い。1908年作のラヴェルのバレエ音楽『マ・メール・ロワ』、1916年作のシマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番、1926年作のヤナーチェクの『シンフォニエッタ』と、20世紀初頭の名作が時系列で続く。コンセプトも明確だし、どれもラトルの才気とセンス、ロンドン響の精緻な機能性が生きる作品だ。

童話を題材にした『マ・メール・ロワ』は、精妙でフランスのエスプリに富んだ佳品。当コンビならば、この上なく緻密な演奏を聴かせるに違いない。『シンフォニエッタ』は以前、村上春樹の小説『1Q84』に登場して話題を集めた小交響曲。チェコの巨匠が描いた民族的な音楽で、トランペット9本をはじめ13本の金管別動隊を用いた壮麗なサウンドが聴きものだ。

そしてシマノフスキのヴァイオリン協奏曲は、ショパン以来のポーランドの大家が全盛期に残した、エキゾティックで妖艶な音楽。ここでは、モデルのような長身と美貌を誇るオランダの人気奏者、ジャニーヌ・ヤンセンがソロを弾く。艶美な音色、高度のテクニック、繊細な感性を併せ持つ彼女は、官能的でいながら難技巧を要する同曲に相応しい名手だ。しかもこの曲は、多数の管・打楽器やハープ2本を用いた、協奏曲としては異例の大編成。それゆえ強力なバックも華麗な効果を発揮する。

全てが生演奏でこそ真価がわかる演目。英国史上最強コンビでそれを堪能できる絶好機を逃してはならない。

公演は9月27日(木)東京・NHKホールにて。チケットは発売中。

文:柴田 克彦