王道の“マンガ肉”――『ONE PIECE』

次は王道の少年漫画『ONE PIECE』から、これまた王道の肉――俗に“マンガ肉”と呼ばれるものを紹介したい。主人公・ルフィの言葉を借りれば「骨ついた肉のやつ!!!」(コミックス8巻)。大ぶりにカットされた肉の両端から骨がにょっきり出ていて、その骨を手に持ってガブリと噛み付く、漫画やアニメではおなじみの肉だ。

ルフィの好物らしく、大規模な戦闘が終わった後の宴会シーンでは必ずもの凄い量のマンガ肉を食べている。さらに瀕死のピンチから救出された時の第一声が「肉」なのだから筋金入りだ。サンジという名コックがいるにも関わらず、『ONE PIECE』で一番印象に残っている食べ物は?と訊かれたら“ルフィが食べてた骨つきのマンガ肉”と答える人が多いのではないだろうか。

 

この食欲をそそるマンガ肉、日本での起源は40年以上も昔の漫画『ギャートルズ』まで遡って確認することができるそうだ。作中に出てきた肉は「ギャートルズ肉」とそのままの名称で近年市販されたりもした。

また今年の夏、人気ゲーム『モンスターハンター』の10周年記念イベントでも、ゲーム中で使用するスタミナ回復アイテム「こんがり肉」の再現版が販売された。このように“マンガ肉”を実食できるチャンスは確実に増えているので、ルフィの気分を味わいたい人はぜひ試してみてほしい。

 

肉食といえばこの作者――『グラップラー刃牙』

まったく別ジャンルで活躍しているにも関わらず、多くのファンから「グルメ漫画を描いてほしい」と切望される漫画家をご存知だろうか? それが『グラップラー刃牙』『餓狼伝』で有名な格闘漫画の大御所・板垣恵介氏だ。

この人が描く食事シーン、とりわけ肉料理の描写は怖いくらいに読者の食欲をかき立てる。理由の1つは圧倒的な“肉のボリューム感”だろう。マッチョな格闘家ばかりが登場する作風のため、彼らの口にする肉もまたブ厚く巨大。テーブルマウンテンを思い起こさせるステーキから湯気が立ち込め、肉汁がジュワーっと溢れてくる描写は圧巻だ。

板垣氏は格闘漫画を描くにあたって人体の筋肉を徹底的に研究したらしいが、うまそうな肉料理のシーンはその副産物かもしれない。

2つめの理由は、食事シーンでの独特な演出。「モニュ……」「シャク……」「ナポ……」など他の作者には使いこなせないような擬音を多用しながら、格闘家キャラクターたちが(ほぼ表情を変えないまま)何千キロカロリーもありそうな大量の肉を平らげていくのだ。初見の読者にはちょっとクセが強いかもしれないが、このユニークな“板垣テイスト”の食事シーンは慣れたらやみつきになる。

そんな数えきれないほどの肉食シーンで、筆者が個人的にイチオシなのが幼年編に登場した“クマの刺身”だ。父親のように強くなりたいと山籠り修行を開始した幼き日の主人公・刃牙。そんな彼を山小屋で出迎えてくれた知人・安藤がふるまってくれた一品である。格闘家ではないが人間離れした巨漢の安藤は地元のクマを拳で仕留め(!)、下処理など気にせず血の滴る状態で刺身にして(!)、お箸ではなくサバイバルナイフを突き立てて(!)刃牙に差し出した。あまりに無骨でワイルドだがそれが逆に良い。刺したナイフから直接肉を口にほおばり、野生のわさびをポリっとかじる安藤の表情が、この熊肉のうまさを物語っている。

こだわりぬいた肉質の描写、食べる際の演出、そして読者が思いもよらない食べ方が相乗効果を発揮し、『刃牙』シリーズの食事シーンはこれからもファンを魅了し続けることだろう。