完全ワイヤレスイヤホンの急成長はウェアラブルデバイス市場にも影響を与えそうだ

昨年からブームに火がついた完全ワイヤレスイヤホンの成長が著しい。各イヤホンメーカーも完全ワイヤレスイヤホンを相次いで発売し、“流行”は“定着”へと移行しつつある。そして、同ジャンルの盛り上がりはウェアラブルデバイス市場にも大きな影響を及ぼしつつある。

ウェアラブル市場のタイプ別伸び率の最大は「耳掛け型」

昨年9月にIDC Japanが発表した「ウェアラブルデバイスの世界・国内出荷台数予測」によると、17年のタイプ別出荷台数シェアは腕時計型が55.4%、リストバンド型が39.1%、靴・衣類型が2.3%、耳掛け型が1.8%、モジュラー型が1.6%、その他が0.4%となっている。

IDC Japanの予測では、21年には、腕時計型が67.3%、リストバンド型が22.4%、靴・衣類型が5.1%、耳掛け型が4.6%、モジュラー型が0.6%、その他が0.1%に推移。リストバンド型が腕時計型に吸収され、靴・衣類型と耳掛け型のシェアが倍増するという傾向を示している。なかでも耳掛け型は最大の伸び率となっている。

しかし、耳掛け型の成長はこの予測を上回ることになるだろう。同調査が発表された17年9月を境に完全ワイヤレスイヤホンの市場は大きく伸長した。家電量販店・ネットショップの実売データを集計する「BCNランキング」によると、2018年3月の販売数量は前年と比べて10倍以上で、イヤホン市場全体における販売台数構成比も上昇。市場構造の転換と呼べるほどのダイナミックな変化が起きつつある。

完全ワイヤレスを“使わざるをえない”状況

完全ワイヤレスイヤホン流行の起点は、アップルが「AirPods」を発売した2016年12月だ。それまでもスウェーデンのベンチャー企業がクラウドファンディングの出資で開発した「EARIN」などが話題になったが、購入層は一部のオーディオファンやガジェット好きに限定されていた。画期的かつ完成度の高い製品だったが、価格は3万円前後で、試しに使ってみるにはハードルが高かった。

「AirPods」も価格でいえば「EARIN」と大差ないのだが、市場環境の違いから大きく跳ねた。同年の9月に発売された「iPhone 7」がイヤホンジャックを廃止。アダプタを使えばこれまで通りにワイヤードイヤホンを接続できるが、当然これまでより利便性は落ちる。こうして狙い通り、完全ワイヤレスイヤホンを使わざるをえない状況が生まれた。アップル製品だからということで、高価格でも、「EARIN」をはじめとする完全ワイヤレスイヤホンほど抵抗がなかったということも要因としてあるだろう。

その後、iPhoneを追随するようにAndroidスマートフォンもイヤホンジャックを廃止。いよいよ完全ワイヤレスイヤホンが必須という環境ができあがりつつある。あわせて完全ワイヤレスイヤホンのラインアップが昨年冬から今夏にかけて激増。価格が1万円以下の製品も登場し、購入のハードルは下がっている。

スマートスピーカーと並行して浸透

完全ワイヤレスイヤホンがウェアラブル端末として定着すると予測するのにはいくつかの理由がある。まず一つ目は、スマホとの親和性だ。ワイヤードイヤホンはケーブルが物理的制約となるため、常時装着しておくことはあまりない。一方、完全ワイヤレスだと物理的制約がなくなり、常時装着も不便ではなくなった。

常時装着すると、音楽を聴く以外の目的でイヤホンを使用する機会が増える。電話や音声アシスタント機能などだ。製品の中にはソニーモバイルの「Xperia Ear Duo」のようにイヤホンをできるだけ長く装着することを追求したモデルや、心拍センサーを内蔵したモデルなど、よりウェアラブルデバイスらしい製品も登場してきている。

昨年秋に登場したスマートスピーカーも完全ワイヤレスイヤホンのウェアラブルデバイスとしての成長を後押しする。日本ではまだ普及するまでには至っていないが、水面下では家電業界や住宅業界がスマートスピーカーの普及を促進しようとしている。完全ワイヤレスイヤホンが意図的につくりだされた“やむをえない状況”で伸長したように、スマートスピーカーを使わざるをえない状況が生まれる可能性は十分にある。

完全ワイヤレスイヤホンはスマートフォンの音声アシスタントに対応するモデルも多く、いうなればモバイルのスマートスピーカーだ。“音”によるデジタルコミュニケーションが当たりまえになれば、平行して日常生活に浸透していくことになるはずだ。(BCN・大蔵 大輔)