アーミル・カーン

日本でも大ヒットした『きっと、うまくいく』と最新のアクション大作『チェイス!』で、2本続けて映画超大国インドの興行記録を更新してしまったのがボリウッドが誇るトップスター、アーミル・カーン。ビル・ゲイツやスピルバーグからもラブコールを送られる世界のカリスマが初来日。取材に応じて肉声を聞かせてくれた。

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『チェイス!』でアーミルが演じたのはサーカス団の団長。しかし裏の顔は改造バイクを操って大金を盗み出す凄腕の泥棒。一本の映画でアクション、手品、サーカス芸にタップダンスと、いくつものスキルを披露して驚かせてくれる。「この映画を選んだのは、自分にとって新しい挑戦だと思ったから。スピーディなアクションであると同時に、ハートを感じるエモーショナルな物語でもある。脚本を読んで、父親の死を見てしまった少年が復讐のために泥棒になるという冒頭から惹き込まれたよ」

オファーを受けるにあたり、アーミルは撮影前に一年間の準備期間を要求。本物のサーカスアーティストに見えるように体脂肪を極限まで落とし、シルク・ド・ソレイユばりの曲芸シーンの大半もスタントなしでやってのけた。怒りや破壊衝動といった負の感情と、生きる喜びを謳歌する気持ちが交錯する複雑な演技も求められたが、一番大変だったのはダンスだと笑う。「インドのスターはみんなダンスが得意だと思うだろうけど、僕は簡単なステップを覚えるのも四苦八苦。心のままに踊るのは大好きだし、ジーン・ケリーやフレッド・アステアのファンだからタップのシーンがあると聞いたときは喜んだ。てっきり優雅に軽快なタップを踏むと思い込んでいたら、最新のモダンタップのスピードやパワーってすごいんだね(笑)。こんなの絶対にできない!って慌てたよ」

それでもシドニーに一か月滞在して世界的タップダンスカンパニー“タップ・ドッグス”に弟子入り。みごとパワフルなダンスシーンを踊り切った。そのストイックな姿勢や社会問題に熱心に取り組む活動から、インドでは“Mr.パーフェクト”の異名を取るほど尊敬を集めている。「その呼び名については楽しんでるよ。僕自身は全然パーフェクトじゃないけどね(笑)。実際完璧な人間なんていないし、完璧じゃないからこそ人間は美しいんだと思ってる。インドではすぐ役者にレッテルを貼りたがるんだ。ただ僕はアクションやラブストーリーといったジャンルでは括れないいろんなタイプの映画に挑戦してきたから、メディアも困って“Mr.パーフェクト”って言い出したんじゃないかな?」

『チェイス!』
12月5日(金)TOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー

取材・文:村山章