目指すは「鉄腕アトム」!

「さがみロボット産業特区」では、前述の3テーマを細分化し、具体的なロボット開発を進めている。

さらに、『鉄腕アトム』の主題歌に出てくる「七つの威力」になぞらえて、

(1)「10万馬力(=リハビリ支援ロボット)」
(2)「サーチライト&カメラ(=無人走行できる災害状況撮影ロボット)」
(3)「聴力1000倍(=マイクロ波レーダーによって、がれきなどに埋もれた生存者を探索するロボット)」
(4)「人口声帯(=会話可能なコミュニケーションロボット)」
(5)「電子頭脳(=自動運転技術を搭載した自動車)」
(6)「人の心を感じる力(=視覚障害者の先導を行うガイダンスロボット)」
(7)「空飛ぶジェットエンジン(=災害現場の情報収集・監視用飛行ロボット)」

の7分野で生活支援ロボットの開発を行っている。

ハンドルを離しても自動運転が可能だったり(写真提供:神奈川県)
重機を無人で操縦できるロボットなど黒岩祐治知事も視察(写真提供:神奈川県)
 

そして、特区認定から約1年半を経て、2014(平成26)年6月3日(火)、「さがみロボット産業特区」での商品化第1号が誕生した。
厚木市の複数の中小企業で組織する「株式会社エルエーピー」の「LLPアトムプロジェクト」による「パワーアシストハンド」だ。

 

エルエーピーの「パワーアシストハンド」(写真提供:LLPアトムプロジェクト)

「パワーアシストハンド」は、神奈川工科大学(厚木市)・山本圭次郎教授の研究成果をもとに、神奈川県七沢リハビリテーションセンター(同)で実証実験を実施。
脳血管疾患などでまひが残って動かすことができない手指の曲げ伸ばしをサポートする福祉ロボットで、開発期間は着想から約5年。総開発費は1億円ほどにのぼるという。

空気圧を利用し、まひしている手の甲側に蛇腹の付いたグローブを装着してもう片方の手でスイッチを押すと、空気圧によって手が開閉するようになる。

「特に苦労したのはグローブの生地選択と指関節位置に合わせた蛇腹の装着、また手のひら側を開放させ装着しやすくした点」なのだそうだ。

パワーアシストハンドの使用イメージ(写真提供:LLPアトムプロジェクト)

価格は29万8000円(税別)で、6月の販売開始から10月中旬までで海外を含めて122件の受注があったという。

アトムプロジェクトの北村代表は「進化バージョンも開発中で、できるだけ早く商品化し、高齢化社会に役立つ介護ロボットを提供していきたい」と、さらなる意欲を語ってくれた。

また「ここ神奈川の『さがみロボット産業特区』が世界の介護ロボット拠点都市になる日を夢みて活動を続けていきます」と話してくれた。

 

さらなる普及に向けた取り組み

神奈川県では「さがみロボット産業特区」の取り組みによって、生活支援ロボットを実用化・普及させることで、県民の「いのち」を守ることができる安全安心の実現を目指しており、今年度も13件が採択された。

採択された案件の一例
採択された案件の一例

このほか、県は3ヶ所(厚木市妻田西、相模原市中央区向陽町、横浜市緑区長津田みなみ台2丁目)にロボット体験施設ショールームを設置。一般の人にも「ロボットのある暮らし」を身近に感じてもらうことで、生活支援ロボットの一層の普及を進めたい考えだ。

食事支援ロボットや本のページめくり機、パワーアシストハンドなどが体験可能

渡部GLは「起業支援など、さまざまな施策によって企業は集まってきている。今後は、以下に一般の人に生活支援ロボットを認知させていくかが重要。『ロボットとともにある社会』実現ために、県としても全力で後押ししていく」と話してくれた。

 

取材を終えて

政府はロボット技術をイノベーション(技術革新)の象徴と捉えている。そのことは、2014(平成26)年6月に公表した「日本再興戦略」でも触れられており、医療、介護などさまざまな産業において革新を起こすことを明文化したことからもうかがえる。

また、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までにロボット産業の市場規模を製造分野で現在の2倍、サービス・非製造業分野で同20倍にすることも盛り込んでいる。

「七つのチカラ」を持った鉄腕アトムのような生活支援ロボットが身近にある世の中が来るのも、そう遠くない未来なのかもしれない。

 ※本記事は2014年11月の「はまれぽ」記事を再掲載したものです。
 

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