N響「第9」指揮/フランソワ・グザヴィエ・ロト (c)Francois Sechet N響「第9」指揮/フランソワ・グザヴィエ・ロト (c)Francois Sechet

チケットぴあの集計によれば、今年2014年の12月に行なわれる日本全国の「第九」演奏会(有料)は105公演。それぞれに異なる個性とエネルギーの「第九」が鳴り響く。

チケットぴあ/「第九」コンサート特集2014

「年末の第九」の元祖、NHK交響楽団には、「新時代のカリスマ指揮者」の呼び声も高いフランソワ・グザヴィエ・ロトが登場。1971年パリ生まれのロトは、南西ドイツ放送交響楽団首席指揮者を務める一方で、古楽器と現代楽器の両方を駆使する革新的アンサンブル「レ・シエクル」を率いて、バロックから現代作品まで新鮮な演奏を聴かせる異才。すでにさまざまな時代的アプローチが繰り広げられているベートーヴェンで、どんな解釈を聴かせるのだろう。

読売日本交響楽団を振るのは1935年生まれのベテラン、レオポルト・ハーガー。ザルツブルク生まれで、モーツァルトを始めとするウィーン音楽に定評あるハーガーの、掌中のベートーヴェンに期待が高まる。日本の国立オペラハウス=新国立歌劇場合唱団の「第九」が聴けるのは読響だけだ。

東京都交響楽団の指揮台には、同楽団との長い共演関係を経て今年4月に終身名誉指揮者に就任した小泉和裕が登場する。互いに手の内を知り尽くした、飾らない深い信頼で結ばれた指揮者とオーケストラならではの息づかいを堪能したい。

ちょっとユニークなプログラムを組んだのがダン・エッティンガー指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。「第九」とともに演奏する伊福部昭《SF交響ファンタジー第1番》は、あの「ゴジラ」を含む、特撮映画音楽からの演奏会用オーケストラ曲だ。「第九」と「ゴジラ」を一緒に聴けるのはおそらく日本だけ!

来日オーケストラでは佐渡裕指揮のケルン放送交響楽団に注目。東京・大阪で計10公演を行なうが、独唱者や東京オペラシンガーズと晋友会合唱団による総勢110人の合唱団も含めて全公演を同じメンバーで演奏する。集中力が研ぎ澄まされる本番を重ねる中で、日本の「第九」演奏史上でも稀なハートの通い合ったアンサンブルが生まれるのでは。2015年9月からウィーン(と近郊のザンクト・ペルテン)を本拠とするトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任する佐渡裕にとっても、今後いっそう関係が深まるであろうベートーヴェンとの新しいページをめくる機会になるはずだ。

今年もよりどりみどりの「第九」。身はひとつで全部聴くことができないのが悩ましい。

文:宮本明

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