1~3月期の連ドラがすべて始まった。初回で視聴率が15%を超えたのは3作品。そのうちのひとつ『最高の人生の終り方』は、2話で11%に落としたので、現時点で平均が15%を超えているのは『ストロベリーナイト』と『ラッキーセブン』の2作品だけということになる。どうやら前期の高視聴率は単なるバブルだったらしい……。

まあ、今期のラインナップでは致し方ない結果でもあるけど、ひとつひとつの中身を見ていくと、期待通りの出来だったもの、期待以上に良かったもの、期待したほど良くなかったものなど、いろいろな作品がある。その中で、あまり期待していなかったせいか、予想以上に楽しんで見ているドラマがある。それがTBS系月曜8時の『ステップファザー・ステップ』だ。



ステップファザー・ステップ
宮部みゆき/作 千野えなが/絵
講談社
1,050円







もともとこの枠の現代劇は、気軽に楽しく見られる作品が多かった。『こちら本池上署』は第5シリーズ、『浅草ふくまる旅館』は第2シリーズ、『ハンチョウ~神南署安積班~』は第4シリーズまで続いていて、安心して見られるのがウリと言ってもいい枠だ。ただ、そのぶん完成度は決して高いとは言えず、どうしても「安い」印象が残ってしまうのも事実だった。

今回の『ステップファザー・ステップ』も8時台のドラマらしい、子供からお年寄りまで楽しめる作りで、そういう意味ではこれまでの月8枠と変わらない。でも、制作会社が替わったせいか、細かいところまで丁寧に作ってあって、予想以上に楽しめるのだ。

設定を簡単に説明すると……。主人公は上川隆也が演じる泥棒・怪盗キング。弁護士の柳瀬(伊東四朗)から情報をもらい、不正に私腹を肥やしている悪人から金品を奪っている。ある日、怪盗キングは侵入先を調査中に高台から足を踏み外していまい、双子の男の子・直(渋谷龍生)と哲(渋谷樹生)に助けられる。気を失っている間に怪盗キングであることがバレてしまうが、2人からは黙っているかわりに自分たちのパパになってくれと頼まれる。じつは、2人の両親は、同じ日に別々の相手と駆け落ちをしてしまっていた。誰かに相談したら2人は離れ離れにされてしまうと思った直と哲は、怪盗キングに父親のフリをしてもらうと考えたのだ──。

ステップファザーというのは継父という意味で、この作品は擬似親子の間に芽生えていく絆を描いている。主人公が泥棒ということで、身のまわりに起きる事件をプロならではの目線で解決していくというようなミステリー要素も当然あるわけだけど、やっぱりこれはホームドラマとして見るのが正しいと思う。原作の中学生から小学生に変更された双子は、ヤンチャだけど子供らしい寂しさをうまく表現しているし、面倒な事に巻き込まれたと思っている怪盗キングも親に捨てられた過去があって、双子のことを本気で見捨てることはできない。そのぎこちない関係が涙を誘っていい感じなのだ。

怪盗キングに情報を提供してお金をたんまり貯めている弁護士の柳瀬も、本当のワルではなくていい。キングと双子との間に「ステップファザー契約」を結ばせて、この契約期間中はキングに不法行為を一切禁止にさせている。つまり泥棒はできない状態にしてしまっているのだ。この柳瀬役に伊東四朗というキャスティングはハマっている。

さらに、双子の担任である礼子先生のキャラクターがまたいい。演じているのは小西真奈美。教育熱心な、いわゆる熱血先生なのだが、型通りの大袈裟な役作りをしているわけではなく、やわらかい雰囲気も兼ね備えているところがいい。礼子先生にも子供を手放してしまった過去があって、それがキャラクターにも反映されているのだけど、その落とし所を小西真奈美はうまく探って演じていると思う。

小西真奈美は、一般的にはバラエティの「ココリコミラクルタイプ」でブレイクしたと言ってもいいのかもしれない。とにかく、この番組でついた可愛い“こにたん”というイメージがしばらくつきまとっていた。ただ、個人的にはこの時期の評価はあまり納得していない。なぜなら、「ココリコミラクルタイプ」に出演する前の『深く潜れ~八犬伝2001~』(2000年・NHK)で見た小西真奈美があまりにも衝撃的だったからだ。

『深く潜れ~八犬伝2001~』は、鈴木亜美(当時の表記は鈴木あみ)のテレビドラマ初出演作で、共演していた千原ジュニアとのキスシーンなどもあって当時はちょっと話題になった。ただそれよりも、ソウルメイトを題材にした内容がまさにディープで、見た者の心を深くえぐる隠れた名作なのだ。このドラマに阿保朋子という役で出ていたのが小西真奈美。この時はまだつかこうへいの劇団にいた頃で、強烈な個性を発揮していた。これを見て、絶対にすごい女優になると思っていたら、いつの間にか可愛い路線で売れてしまったので、ちょっと違和感を感じていたのだ。


深く潜れ~八犬伝2001~ DVD-B0X
徳間ジャパンコミュニケーションズ
21,420円




つかこうへいの劇団を経て売れた女優という意味では、黒木メイサとコースは似ている。ちなみに、小西真奈美は6期生で、黒木メイサは11期生。今はまったくタイプが違う2人だが、阿保を演じていた時の小西真奈美は、今の黒木メイサのような鋭さもあったのだ。
また話がズレてしまった。とにかく、今のやわらかさも保ちつつ、繊細な演技をしている小西真奈美も見られるのが『ステップファザー・ステップ』だ。視聴率はあっという間に一桁になってしまったけど、気軽に楽しく、なおかつじんわりと泣けるホームドラマが見たいという人にはオススメの作品だ。

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。