魅力的なキャラクターを作り上げるのには、かなりの労苦を要する。

 際立った特徴があり、受け手(読者や視聴者など)がなじみやすいキャラクターは、おいそれと出来るものではない。そこでどうするか。既存のキャラクターを流用する手法がある。出来あがったキャラクターであれば、細かな設定を練り上げる必要もなく、知名度が高いため読者に受け入れられやすい。その典型的なものが、歴史上の偉人や有名人を登場させる方法だ。
そんな歴史上の人物の中でも、屈指の魅力的なキャラクターと言えば、織田信長である。

 戦国時代の真っ只中、尾張(現在の愛知県の一部)に生まれ、青年期に父親を亡くし家督を継いだ後は、強敵と戦いながら鉄砲や楽市楽座をいち早く取り入れ、天下統一の道半ばにして家来の反逆により本能寺で討ち死にと、まさに劇的な人生を送っている。また“鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす”の歌で象徴されるように、激情型の性格だったと言われているが、領民や南蛮人に対しては意外に思いやりを見せる面もあったと伝わっている。これほどのキャラクターを漫画界が放っておくわけがない。これまでにも様々な作品に取り入れられてきたが、今また織田信長が登場する作品が作られている。

 小学館の「ゲッサン」で連載されている『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』(石井あゆみ)は、現代の高校生、サブローが戦国時代にタイムスリップし、瓜ふたつの若き信長と立場を入れ替えて生きる物語だ。現代の知識を持ったまま過去にタイムスリップすれば、大きく有利になりそうなものだが、そこはサブローが落ちこぼれ高校生との設定で、細かな歴史の流れまでは把握していないようになっている。

 信長の奇妙な振る舞いは現代っ子ゆえだったり、他にも現代からタイムスリップして戦国大名になった現代人が出てきたり、あの有名人が実は忍者で信長の命を狙っていたりと、歴史の流れはそのままに上手くオリジナリティを織り込んである。おそらくこのまま本能寺の変に流れ込むのだろうが、どんな仕掛けが待っているのか期待が膨らむ一方だ。

 漫画に欠かせないのがヒロイン。『信長協奏曲』では信長の妻、帰蝶がとにかく可憐に可愛く描かれている。残された絵からミス戦国と呼ばれることもある信長の妹、お市はとてもお転婆であり、浅井長政に嫁いで赤ちゃんを産んでからも、突飛な発想や行動力は相変わらず。重要な場面で度々キーパーソンになっているのは、史実以上の面白さがある。どちらもサブロー信長にベタ惚れしているので、少々モテ過ぎなのでは?と思うが、これも主人公の特権なのだろう。