キャラメルボックス『太陽の棘 彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう』 撮影:伊東和則 キャラメルボックス『太陽の棘 彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう』 撮影:伊東和則

キャラメルボックスの新作公演『太陽の棘 彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう』が12月10日、東京・サンシャイン劇場にて開幕した。今作は脚本家・ほさかよう(演劇プロデュースユニット「空想組曲」主宰)に脚本を依頼し、劇団の成井豊が演出する新しい取り組みだ。キャラメルボックスと言えば「人が人を想う気持ち」をスローガンに掲げ、幾多の困難の末にその想いを成就させる物語を得意としている。だがこの舞台では「死別を契機に、残された人達が故人の本心を探る」という、劇団史上類を見ない物語に挑んだ。大切な存在に先立たれた人々のやりきれぬ心情を丁寧に描き、新たな刺激と可能性を呈示した意欲作に仕上がった。

キャラメルボックス『太陽の棘 彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう』チケット情報

物語は、事故で恋人を失った女性と兄を亡くした弟と従姉妹が、兄が残した手紙を手掛かりに東北へ旅に出るところから始まる。今作で劇団公演に初主演する鍛治本大樹は、弟・永沢亮二を演じる。心根の優しい青年を全身で体現化し、見事大役を果たしていた。最愛の恋人を失った星宮明音役を務めるのは岡内美喜子。残された側の悲しみを背負い複雑に揺れ動く心状は、岡内の確かな演技力により一層の真実味を増していた。そして、物語のキーパーソンである兄の永沢恭一を演じるのは多田直人。宮沢賢治を敬愛し、聡明さと正義感を持つ恭一の姿に多田自身の存在が重なった。

“自己犠牲の精神”ゆえに命を落とした恭一の心の奥を探る旅は、賢治の未発表童話『ペンネンノルデの伝記』になぞられたストーリーに彩られながら、ドラマの後半で徐々に明らかになっていく。

近しい者同士であっても、感情のすれ違いやどうにもならない過去のエピソードなど、人間の清濁に迫ろうとするほさか脚本の特色が随所に見られる。また、白を基調としたセットが組まれ、全体的にソリッドな舞台空間に仕上がっているのは、作品が持つ哀感の影響か。背景の白壁に画像や照明を映し出す演出は、他のキャラメルボックス作品では見かけず新鮮な印象を残す。ほさかの脚本と、演劇への熱情を包み隠さず表現するキャラメルボックスの化学反応が新たな世界を広げたと言える。

来年、創立30年を迎えるキャラメルボックス。新しい刺激を内包した今回のコラボレーションは、劇団の更なる挑戦を予感させた。

公演は24日(水)まで。なお、同劇場では『ブリザード・ミュージック』を25日(木)まで同時上演中。チケットは公演前日までチケットぴあにて発売。

取材・文:園田喬し

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