私がこの40年近くの間で見てきた文房具にまつわるあれこれの中で、もし「この世界に新しい流れを創った人は誰?」と訊かれたら、思い当たる人がだいたい20人くらい居られて、その筆頭クラスとして推したいのが「スコス ステーショナリーズ・カフェ」を作られた寺村栄次さんと浅井良子さんです。


「スコス ステーショナリーズ・カフェ」(本郷旧本店)


「スコス ステーショナリーズ・カフェ」 (以降スコス)は東京都内に3店舗ある文房具のお店。取り扱い商品のほとんどが輸入の文房具。ドイツやチェコを始めとするヨーロッパの製品が中心になっています。輸入文房具と聞くと、ここ数年急速に増えつつある「スタイリッシュなビジネスシーンを演出する、デザイン性にすぐれた文房具を扱うお店」なんていうのを想像されると思いますが、スコスは違います。売り場にあふれる製品達が放つ鮮やかな色合いと可愛らしい雰囲気、おもちゃ箱をひっくり返したようなゴチャゴチャっとした賑やかな感じ。そして店内にあふれる楽しさ。


本郷旧本店・店内の様子


店長の寺村さんは元々、文房具の中でもいわゆる「ファンシー系」と呼ばれているジャンルのものがお好きだそうです。寺村さんと浅井さんが持っている、独自の嗜好や世界観がきっちりとスコスの店内に反映されています。最近の文房具店に多い、市場の動向(トレンド)を追いかけながら、専門誌の記事を熱心に勉強しながら、あるいはどこか別のお店にインスパイア(笑)されながら作り上げた売り場とは、およそ一線を画すものです。


本郷旧本店・色鮮やかな文房具の数々


本郷旧本店・筆記具やレフィルも豊富


スコスを理解するのに近道となる本があります。寺村さんと浅井さんが書かれた『文房具と旅をしよう』 。ここには、おふたりが訪れたヨーロッパの国々における街の風景、旅での出来事、そして出会った数々の文房具が語られています。

書籍『文房具と旅をしよう   ブルースインターアクションズ 1680円


本書を読み終えると、スコスがどのような世界観で「作られて」いるのかを知ることができるのです。この本は、これまで文房具がビジネスの道具だったり、一部マニアのコレクションや愛玩の対象だったり、そんな従来のスタンダードとは全く違う楽しさを教えてくれました。そして文房具の枠を飛び越え、多くの人に海外雑貨への興味を持たせたという意味でも貴重な本であったと思います。