新作『暮れ逢い』を発表したパトリス・ルコント監督

『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』などで知られる恋愛映画の名手、パトリス・ルコント監督。前作『スーサイド・ショップ』ではアニメに挑んだ彼だが、新作『暮れ逢い』では大人の恋愛映画に回帰した。

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今回の物語は『マリー・アントワネット』などの歴史小説で知られるオーストリアの作家、シュテファン・ツヴァイクの短編小説がベース。鉄鋼業で成功を収めた実業家ホフマイスターの若き妻シャーロットと、そのホフマイスターに見初められ個人秘書に抜擢された若き青年フリドリックという許されぬ恋に落ちたふたりの純愛が描かれる。再び“愛”を主題にしたことをルコント監督はこう明かす。「今の時代、メイク・ラブの扱いがとても軽い気がしてならない。その風潮に対して、一石投じたい気持ちがどこかにありました」

作品はルコント監督の過去の恋愛映画にも通じる、秘めたる恋の物語。互いの立場や気持ちを想うふたりは最後の一歩に踏み出せないながら、それゆえ愛は高まる。その心の葛藤を、『アイアンマン3』などハリウッド大作への出演が続いているレベッカ・ホールと、ディズニーの新作、実写版『シンデレラ』で王子役に抜擢されたリチャード・マッデンが見事に体現している。「僕の演出はシンプル。カメラの後にたって、役者を見つめるだけ。すると役者は自然とすべてを僕に差し出してくれるんだ。今回のレベッカとリチャードも作品にすべてを捧げてくれたよ」

一方、結果的にふたりの愛の大きな障害となるシャーロットの夫ホフマイスターを演じたアラン・リックマンも忘れがたい印象を残す。「気難しい役者という噂があるけど、なぜそう言われるのかわからない。役に全身全霊を注いでくれ、こちらの要望を聞くと瞬時にそれを表現してた。彼の演技が今回の作品に重みを与えてくれたことは間違いない」

監督デビューして40年がたった今も創作意欲は衰えていない。今後も我々の胸を焦がすような恋愛映画を作り続けていってくれそうだ。「恋している男女の姿を描くことこそ僕は映画的と思うんだ。また、『髪結いの亭主』が完成したとき、ある著名な監督を試写会に招待した。すると試写後に彼が涙を流していてね。理由を聞くと“この映画を見て、僕の妻への愛がまだまだ足りないことに気づいた”とのこと。この言葉は今でも僕の心の大きな支えで、今も恋愛映画を作り続ける自信になっている。今後もいろいろな愛の形を描きたいと思っているよ」

『暮れ逢い』
12月20日よりシネスイッチ銀座にて公開

取材・文・写真:水上賢治