映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』12月公開 ©2014 Column Film BV

4年で終わるはずだった改装工事が、市民団体からの猛抗議で延期に次ぐ延期の連続。 結果、10年もその扉を閉ざさざる得なくなってしまった世界的美術館がある。

オランダの首都アムステルダムにある<アムステルダム国立美術館>だ。

なぜ、こんなことになってしまったのか? 映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』の重要な登場人物のひとりで、この10年に立ち会ったアムステルダム美術館アジア館主任学芸員のメンノ・フィッキさんが、現場の実情を明かす。

 

オランダ屈指の人気観光スポットが10年も閉館した理由とは!?

200年の歴史を持つアムステルダム国立美術館が創立以来の全面改修が始まったのは2004年のこと。すぐ隣に位置するゴッホ美術館と並びツーリストが必ず立ち寄る超有名な観光スポットでもある同ミュージアムは、国からも早期の改修終了が望まれていた。

アムステルダム美術館アジア館主任学芸員のメンノ・フィッキさん

メンノ氏はこう振り返る。「当初は何の問題もなくて、誰もが発表されたとおり、2008年にリニューアルオープンされると思っていました」

ところがである。実は、アムステルダム国立美術館は公共の道路の上に架かるように建っている。簡単に言うと建物の真ん中を道路が貫く変わった構造。これが大問題の火種となる。

「なぜそういう構造になったか? 実は19世紀、新たに都市の整備の一環として美術館は建てられることになりました。そのとき、都市の玄関口となるランドマーク的なものにしようとなって。ゲートの役割も兼ねることになり、美術館が公道の上に架かるように建てられることになったんです。ほかの国なら迂回路を作るとか、美術館は別の場所になるとかになるのが普通なんでしょうけど(笑)」

改修で問題となったのは公道の通る、美術館のエントランス部分の新設計。発表されるや否や、“自転車が走りにくくなる!”と自転車王国アムステルダムの一般市民は猛反発。サイクリスト団体は“通路を救え”キャンペーンを展開し、大論争になるとエントランス案をめぐり工期は果てしなく遅れていくことになる。

「今だから冷静に振り返れるのですが、(この大論争)はとてもオランダ的(苦笑)。映画を観てもらうとわかるのですが、市民と今回だったら美術館関係者や施工業者の関係に上下はなくあくまで対等。何か問題があったら両者が徹底的に議論して解決策を見つけ出す。それぐらいオランダは個人の意見が尊重されています。ただ、それはときにあちらを立てれば、こちらが立たずで、今回の騒動のように問題を複雑化させてしまう(笑)。設計はスペイン人の建築家、クルス&オルティスが手掛けたのですが、彼らはこう言って驚いていました。“サイクリスト団体がこんな国家プロジェクトといえる大規模工事を留めることができるなんて信じられない”と(笑)」

こうして中断を余儀なくされたわけだが、完成した今の状況は?

「サイクリストも納得の公道になりました。何を隠そう僕も快適に毎日美術館まで自転車で通っています」