【J-POP】これがポップスの新しい基準/スキマスイッチ『musium』

2011.10.25 13:20

スキマスイッチが10/5日リリースしたニュー・アルバム『musium』のディスクレビュー。著者が選んだスキマスイッチ名曲セレクト3も付けました。

 スキマスイッチ。

 改めて考えると変な名前である。

 正直、特別カッコいいわけではない。が、不思議とダサいわけでもない。親しみやすいんだけど、どこか妙。ありそうでなかなかない、絶妙なセンスだ。ちなみに結成時、他の候補として「タタミスイッチ」や「コタツスイッチ」があったと知った時はあまりのゆるさに腰を抜かしたが、最終的にスキマスイッチに落ち着くあたりが、スキマスイッチがスキマスイッチたるゆえんだと思う。親しみやすさの中に微量の引っ掛かりを忍ばせつつも、最終的にはポップに着地する。これは名前だけでなく、彼らの音楽性にも言えることだ。

 例えば、彼らの最も知られている楽曲のひとつ、『全力少年』を聴いてみてほしい。


  うん。爽やかで若い情熱がほとばしる、ポップスの醍醐味が凝縮された文句なしの名曲だ。

 では次に、この曲を実際に歌ってみてほしい(サビだけでもOK)。さてどうだろう。さっき聴いていた時には感じなかった、ある思いが生まれてこないだろうか。

……難しい!

 そう、この曲、聴いた印象と正反対に、歌うのが異様に難しいのだ。 特にサビ。メロディの高低差がやたらと激しいし、一番高い音は一般男性にはかなり高めの設定だし。カラオケで歌う際は要注意である(それだけに、完璧に歌いきれた時の爽快感は格別だが)。

 キャリアの中でトップクラスのヒットを飛ばした曲が、歌ってみると実はかなり難易度が高いという事実。これも、スキマスイッチらしさを端的に表しているひとつの例だと思う。完成度の高いポップスであることは間違いないんだけど、どこか一筋縄ではいかない。こんなふうに彼らはデビュー以来、“誰からも愛されるポップス・ユニット”というイメージを引き受けながら、既存のポップスの枠を少しずつ広げてきた。

 そんな彼らが、今月の5日にリリースしたニュー・アルバム『musium』。スキマスイッチはこの作品で、新しい局面を迎えている。

 アルバム中でいちばん古い2010年7月発表のシングル『アイスクリーム シンドローム』からすでに顕著だった、生々しいグルーヴをたたえた演奏はさらに表情豊かに進化。ボーカルも歌詞もアレンジも禁じ手や遠慮といったものを一切排し、全編通して非常に自由なマインドにあふれている。これまでパブリックイメージの陰に隠れていた“どこか一筋縄ではいかない感じ”も含め、本当のスキマスイッチの全貌がついに姿を現したというか、過去最高にスキマスイッチがスキマスイッチ自身を謳歌しているアルバムという印象なのだ。

 スキマスイッチらしさってなんだろう。ポップスらしさってなんだろう。いまポップスをやる意味って一体なんなんだろう。そういう様々な問いに「とにかくいい曲を作る」というめっちゃめちゃシンプルな方法で立ち向かった結果、これがスキマスイッチの、もっと言えば日本のポップスの新たなスタンダードなのだと言い切ってしまいたくなる、そんな傑作をついに作ってしまったのである。

 言ってしまえば、たかがポップス。ただ楽しいだけ、ただ気持ちいい音が鳴っていれば、それでも全然問題ない。でもやっぱり、されどポップス。<うわあ、ポップスって、こんなに自由で、大きな可能性を秘めたものなんだ!>という、新鮮な驚きとインスピレーションを与えてくれる作品に自分は心を動かされるし、そんな作品を作り続けているスキマスイッチのようなアーティストを心から尊敬する。

 『musium』が、この国のポップスのハードルを格段に上げたことは間違いない。それは彼ら自身にも言えることで、この作品を経て、今後スキマスイッチはどんな未知のポップスを紡いでいくのだろうか。気が早すぎるのは重々承知だけど、彼らの歩む未来がいまから楽しみでしょうがない。

   

スキマスイッチ / New Album「musium」 

アルバムタイトルの読み方は“ミュージアム”。music(ミュージック=音楽)とmuseum(ミュージアム=博物館)を組み合わせた名前で、デビュー以来『夏雲ノイズ』『空創クリップ』『夕風ブレンド』『ナユタとフカシギ』と、常にふたつの言葉の組み合わせでアルバムタイトルを飾ってきたスキママナーに則ったもの。7netshopingで購入

極私的・スキマスイッチ名曲セレクト3

雨待ち風

2ndアルバム『空創クリップ』収録のサッド・バラード。リリース時、自身のラジオ番組でこの曲をかけた菊地成孔と大谷能生が、サビのアクロバティックな転調に驚きつつ感心していたのが印象深い。

 

アーセンの憂鬱

3rdアルバム『夕風ブレンド』収録の熱いファンク・ナンバー。来年から始まるツアーでは、ぜひ新作の『スモーキンレイニーブルー』と繋げて演奏してほしい。踊るぜ。

 

SL9

前作『ナユタとフカシギ』収録の壮大なスケールのロック・チューン。ライブではロックバンドさながらの絶唱&絶演奏を繰り広げ、個人的に大興奮! その模様はライブDVDで確認できる。
 

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