連載第1回は、Amazonアカウントを利用した決済サービス「Amazon Pay」。Amazon Pay事業本部本部長の井野川拓也氏に最新動向と今後の取り組みを聞いた

【Amazon全方位研究・1】 いまやAmazonのサービスはオンラインストアという枠を超え、事業者の販売チャネルからエンドユーザーのタッチポイントにまで拡大している。多角的に攻めるAmazonは流通のあり方をどのように変革していくのか。日本法人のキーマンたちを連載形式で取材し、その方向性を探っていく。 第1回は、2015年5月から日本での提供を開始した「Amazon Pay」を取り上げる。Amazon.co.jpのアカウントを利用した決済サービスとして今年で3周年を迎えた同サービスは、すでに数千のECサイトや予約サイトなどで導入されるなど、目覚ましい成果をあげている。Amazon Pay事業本部本部長の井野川拓也氏に最新動向と今後の取り組みを聞いた。

取材・文/大蔵 大輔、写真/南雲 亮平

物販以外でも導入進む パートナー戦略で拡大

―― 今年5月でサービス提供開始から3周年を迎えました。導入企業はどのような事業者が多いのですか。

物販はもちろんですが、サービスを販売する事業者様の導入も増えています。Amazonが今年7月に開催したプライムデーでは、初めてAmazon Pay導入企業様のECサイトでも、プライム会員のお客さまのために、旅行や航空券、ハウスクリーニングサービスなどのAmazon.co.jpでは販売できないような特別商品・セール商品をご提供いただきました。

Amazonの企業理念は「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というものですが、Amazon Payをご利用いただくことで、Amazon以外のECサイトでも、Amazon.co.jpと同じようなお買い物体験ができます。すなわち即座に簡単かつ安全なショッピングをお楽しみいただけるのです。本サービスの意義はそこにあります。

―― 導入企業拡大のためにどのような戦略をとられているのですか。

導入企業の拡大はパートナー戦略が奏功した結果だと捉えています。Amazon PayではECのソリューションプロバイダーを対象にした公式認定制度「グローバルパートナープログラム」を設けており、技術的な情報交換やマーケティング施策などにおいてパートナーとして連携しています。こうしたパートナーが運営するショッピングカートなどにAmazon Payを組み入れていただくことで、その先にいる多数のEC事業者にリーチできます。

―― 物販では自社サイトとAmazon.co.jpで重複して販売している事業者もありますね。この違いはなにかあるのでしょうか。

ただ購入するのならどちらでも変わらないかもしれませんが、例えば、ギフト商品などは名入れのようにAmazonの仕組みでは対応しにくい場合もあります。そういったケースは必要な機能を実装した自社サイトをご利用いただきつつ、決済はAmazon Payで、という形になりますね。

―― なるほど、そうした需要もあるのですね。ユーザー目線だとなかなか気づきにくいのですが、この3年間や機能に関してアップデートしたことはありますか。

いわゆる定期購入に対応できるようにしたことは大きな変化でした。美容関連アイテムやサプリメント、コンタクトレンズなど、1か月単位だったり3か月単位だったり、一定の期間ごとに購入する商品を取り扱うECサイトでは、これまでお客さまのクレジットカードの有効期限切れによる解約が機会損失につながることがありました。これがAmazon Payの利用により、Amazonでの日々のお買い物時に更新されたクレジットカード情報がそのまま反映されるので、その機会損失を防げます。あるEC事業者様においては、解約が減るのでお客さまのライフタイムバリューが長くなったという結果も出ています。

―― これだけのことというと失礼ですが、決済の方法を変えるだけでこうした効果が出るのはおもしろいですね。

QRコード決済や音声決済の中核技術としての可能性

―― 7月末に実店舗におけるQRコードを利用した決済サービスに参入するという報道がありました。

まだ実証実験段階なので、現時点ではお話できないのです(笑)。ただ、米国ではすでにQRコードを利用した取り組みをいくつか実施しています。例えば、「Amazon Books」での店頭支払い時。Amazonショッピングアプリに表示されるQRコードでお客さまのAmazonアカウント情報を認証し、「お客様はAmazonプライム会員なのでこれだけ割引を受けられます」といった取り組みです。また、過去には期間限定ではありますが、ファッションショーでモデルが着用したアイテムをご購入いただくにあたり、事業者様のQRコードを読み込んでお支払いいただくといった実証実験も行っています。

―― 先日、新しい日本赤十字社のAlexaスキルが提供され、Amazon Payを利用した音声での寄付が可能になるという取り組みが発表されました。災害支援のための寄付という目的で提供されたということですが、本格的な音声決済技術の提供はいつ頃を予定していますか。

まだ日本では決済APIの公開時期も含めて具体的には決まっていません。米国でもAPIをようやく公開した段階です。しかし、多くの開発者様からご要望はいただいていますので、これからの展開に期待していただければと思います。

―― 最後にAmazon Payの現状の課題などがあれば教えてください。

3周年を受けて実施したインターネット調査によれば、Amazon Payで一度でも決済したことのあるお客さまの64.7%が「今後も利用したい」と回答している一方で、まだ利用したことのないお客さまの利用意向は1.3%と低いです。バックヤードのシステムだからということもありますが、認知度についてはまだ課題があります。ある程度の閾値を超えれば、自然に認識していただけるサービスだと考えているので、それまではコツコツ地道に導入や利用の強化を図っていくつもりです。