飛ぶ鳥を落とす勢いのAKB48。女優業としては前田敦子や大島優子の活動が目立っているが、今期は指原莉乃(さしこ)と渡辺麻友(まゆゆ)も深夜ドラマで主役を張っている。指原莉乃が出演しているのは、日本テレビ系土曜25時55分からの『ミューズの鏡』。渡辺麻友が出演しているのは、テレビ東京系金曜24時53分からの『さばドル』だ。どちらも系列局が少なく、見られる人は限られると思うので、ここで簡単にレポートしておこう。

 

まずは『ミューズの鏡』。主演はヲタキャラ、ヘタレキャラでお馴染みの指原莉乃。バラエティではいち早く『さしこのくせに』という冠番組を持ったが、その番組が終了後も勢いは落ちず、この作品でドラマ初主演、主題歌でのソロデビュー(3月発売予定)を射止めた。まあ、さしこの場合、それ自体がネタという雰囲気もあるのだが、2話から流れている主題歌は比較的王道のアイドル曲で、完全に秋元康に遊ばれているという感じでもない。最近は言動も堂々としてきたし、意外と長く活躍しそうな5期生だ。
 

   

 

 






『さしこ 指原莉乃1stフォトブック』
講談社
1,200円


で、ドラマの内容だが、これはシュールでナンセンスな笑いが得意な福田雄一が脚本と演出を担当していることが何よりも大きな特徴となっている。放送作家として「ピカルの定理」や「新堂本兄弟」などの構成も担当している福田雄一は、堂本剛が主演した『33分探偵』や、山田孝之が主演したドラクエ風の冒険活劇『勇者ヨシヒコと魔王の城』などで、ドラマの世界でも異彩を放っている人。その福田雄一が、大映テイストで1話15分(全24回を予定)のドラマを作っている。 

大映というのは、大映テレビという制作会社のことで、かつては山口百恵の赤いシリーズや、『スチュワーデス物語』『スクール☆ウォーズ』『不良少女と呼ばれて』などを作った会社。大袈裟な芝居、不幸がてんこ盛りのストーリー、わざとらしい効果音などが特徴で、一般的にこの会社が作ったドラマは大映ドラマと呼ばれている。今回は福田雄一がそのテイストをパロって作っているのだ。 

さしこが演じているのは、向田マキという貧乏な女の子。演技をしたことも、舞台を見たことも、1万円札さえも見たことはないが、芝居が好きという設定になっている。『ミューズの鏡』は、そんなマキが、有能な俳優を引き抜かれ傾きかけている劇団の演出家に見出され、女優として覚醒していくという内容だ。
 
とにかく、徹底的にバカバカしくやっているので、そのノリが楽しめる人は無条件にハマれるはず。毎回、1~2度は吹き出して笑える箇所がある。さしこもAKBでコント的なものは経験しているので、笑いの間もそつなくこなしている感じだ。結果的に、福田雄一の作品が好きな人も、さしこ推しの人も、両方が楽しめる作りになっている。

 

そして、もうひとつのドラマは『さばドル』。主演は、正統派の美少女で、出始めの頃はCGじゃないかと言われたこともある3期生の渡辺麻友。もともと演技には定評があるので、彼女がドラマの主役を務めることに驚きはなかった。渡辺麻友もこのドラマの主題歌「シンクロときめき」で、2月29日(水)にソロデビューが決まっている。

   

 

 






『まゆゆ 渡辺麻友1st写真集』
集英社
1,200円
 

『さばドル』の内容は、17歳のアイドル・渡辺麻友が実は38歳で、年齢でさばを読んでいるアイドルだったというもの。渡辺麻友が演じているのは、AKB48の中心メンバーで、渡り廊下走り隊7にも所属している渡辺麻友という役。つまり、そのまま本人なのだが、38歳で高校の古文の教師をしている、宇佐しじみという役も同時に演じている。この38歳の役をどう演じるのかが当初は心配だったんだけど、わざとらしい老けメイクをするわけでもなく、地味な雰囲気でやっているので、その部分でシラケることはない仕上がりだ。 
 

   

 



 『シンクロときめき 初回生産限定版C』
ソニー・ミュージックレコーズ
2月29日(水)発売 1,600円
※C版のジャケットのみ、宇佐しじみヴァージョン 


ストーリーとしては、渡辺麻友がAKB48の公式ライバルである乃木坂46に移籍するというところから始まっている。まゆゆは迷いながらもその移籍を受け入れるが、ファンからは「AKBでセンターを取れないから、ラクして取れる乃木坂に移籍したヘタレだ」と言われてしまう。そして、実際に乃木坂46の中では、まゆゆだけに注目が集まるという結果に……。宇佐しじみが教師を務める高校にも熱狂的なまゆゆ推しがいて、彼も渡辺麻友の移籍に疑問を持つ。総選挙で「これからも自分を信じて、そしてみなさんを信じて、自分の決めた道を歩んでいきます」と言ったのに、これがまゆゆの信じた道なのかと。まゆゆはその言葉を聞いて、本当の自分は何なのか、本当の自分は何をしたいのかを真剣に考え始める……、というのが序盤の流れだ。 

AKBがメインの番組には、基本的に秋元康が企画や監修として関わっているが、このドラマは企画だけじゃなく、原作も秋元康が担当している(脚本は根元ノンジ)。だから、明らかなフィクションなのに、所々フィクションじゃないような気にもなってしまう。そこがこのドラマの一番面白いところだ。ちなみに、渡り廊下走り隊7は初回に全員が出てきたが、平嶋夏海の脱退により、現実問題として今はもう揃わない状況になっている。そのあたりを今後ドラマの中でどう扱うのかもちょっと興味深い。
 


いずれにしても、AKB48というのはその成長過程を楽しんでこそのアイドル。その過程のひとつであろうこの2つのドラマも要チェックだ。

 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。