津曲雅彦役の有田哲平

 涼ちゃん(間宮祥太朗)と離婚し、子どもを連れて実家に戻った鈴愛(永野芽郁)は、“モノづくり”という新たなステージに進んでいく。そんな彼女の人生に大きな影響を与える、うさんくさい男・津曲雅彦役で出演する、お笑いコンビ、くりぃむしちゅーの有田哲平。深夜ドラマの初主演を経て、国民的ドラマ“朝ドラ”にまで足を伸ばした俳優・有田の心境とは…? 役作りや、初めて経験する朝ドラ現場での様子とともに聞いた。

-国民的ドラマのオファーを受けたときのお気持ちは?

 去年、初めて連続ドラマ(TBS系「わにとかげぎす」)の主演をやらせてもらったときに、バラエティーをやりながらのスケジュールで周りに迷惑をかけたし、真夏のロケで日に日に痩せて、最後は『あしたのジョー』の矢吹丈のように灰になっちゃったから、事務所に「ドラマはしばらくいいです」と言ったんです。でも、朝ドラは別です。北川(悦吏子)先生が当て書きしてくれていると聞いて、「もちろんやります」と即決しました(笑)。「わにとかげぎす」への出演が今回のオファーにつながったので、本当にやってよかったです。

-撮影現場に実際に入ってみていかがでしたか。

 毎朝リアルタイムでドラマを見て、「鈴愛ちゃん、頑張れ!」って漫画家になる夢を応援していたのに、僕の撮影がはじまったときは漫画家をやめて実家に帰っているし、現場に知らない子どもがいて、永野さんが「私の子どもです」って言うから、僕が「律(佐藤健)との?」と聞くと、永野さんが「律とじゃないです」って。訳が分からないですよ。自分が見ていたドラマの内容と、現場の様子が全くつながらないので、本当に僕が出てくるのか、いまだに分かりません。

-途中から参加するという緊張感もあったのではないですか。

 緊張しながら現場に行ったし、すでに出来上がっている輪の中に入れるかな…とも思いました。でも、皆さん温かく、よそ者感なく入れていただいて、休憩中にもいろんな話をして楽しんでいます。

-津曲は、商品プランニングやマーケティングなどさまざまな事業を展開する「ヒットエンドラン」の社長で、鈴愛のモノづくりに影響を与えるようですが、人柄について教えてください。

 バブリーな時代を駆け抜けた小悪党だけど、最後まで裏切ることができない“いいやつ”と聞いていますが、僕としては、人間だから魔がさして何かをしでかすけど、小悪党にもならないぐらい情に弱い人間だと思います。

-有田さんが演じるとなると、コミカルな役になるのでしょうか。

 あまり芸人っぽくやると役の邪魔になると思うので、折り合いをつけながら演じています。「テンションが上がった流れで、アドリブで」と言われたときは自分なりにやりましたけど、「ちょっとテンションを抑えてください」ということもあったし、脚本が素晴らしいので、まったく関係のない遊びはしないようにしています。

-北川さんいわく、「終盤のキーパーソン」だそうですね。

 確かに鈴愛ちゃんの人生のサポート役にはなると思いますけど、ドラマの展開を担うキーパーソンかなぁ? それはおこがましいです。

-当て書きを喜ばれていましたが、その実感はありますか。

 役を冷静に見られるほどの余裕がないです…。

-朝ドラの撮影方法は独特で戸惑う方もいると聞きますが、有田さんはどうでしたか。

 びっくりしたのは別日にリハーサルがあることです。どんな感じなのかをマネジャーに聞いたら「台本を持ちながらで大丈夫です」と言うから、流せばいいかなと思って行ったら、全員がせりふをきっちり覚えていて、真剣で、僕だけ台本を持っているから恥ずかしくて…。すぐに事務所でマネジャーと練習して本番に臨みました。そもそもバラエティーでは台本を覚える作業はしないので、本当にしんどい…。

-苦労されている様子が目に浮かびますが、だからこそ注目してほしいところはどこでしょうか。

 撮影初日に長ぜりふのある台本9ページのシーンがあって、健くんに「(カメラ)止めながらやるんでしょ?」と聞いたら、「何言っているんですか。NHKは一気に行きますよ」と言うから頑張ってせりふを覚えたので、そこはぜひ見ていただきたい!

-長ぜりふや長回しも朝ドラ名物ですよね。

 ここまで何かを覚えたというのは受験勉強以来です。でも、誰も褒めてくれないんです。まぁみんなにとっては当たり前のことですからね。

-ちなみに、相方の上田晋也さんの反応は?

 去年のドラマの撮影時に、楽屋でぐったりしていても何も声をかけてくれなかったし、クランクアップして「大変だった」と言っても、「そうか?」って。「俺はバカボンやっているけどね」みたいな上から目線でドライだったけど、これに関しては奥さんと子どもが欠かさず見ていて、上田もつられて見ているみたいで、「おまえ、『半分、青い。』出るの!?まじで?いいなぁ」って初めて俺に嫉妬してくれました。

-“没”な人生からはい上がろうと奮起する中年男の姿を描いたドラマ「わにとかげぎす」では、ナチュラルな芝居が好評でしたが、本作での経験も含めて役者業にどのような魅力を感じていますか。

 これまでにもドラマの誘いはあったけど、「役者は向いていないんですよ」と断ってきたんです。でも、食わず嫌いもどうだろうと思ってやらせてもらったら、バラエティーと全然違って新鮮でした。拘束時間が長いし、同じシーンの撮影を何度もすることは大変だけど、みんなでいいものを作っているという実感があって、やりがいを感じました。

-朝ドラを機にブレークする役者は大勢いますが、ご自身の俳優として展望は?

 ドラマはものすごい数のスタッフと、気長な作業でできているので、怠けた精神で、その場その場の行きずりの仕事をやってきた身としては、僕から「こういう役をやりたい」というのは全くないです。ただ、あえて芸人の僕を使いたいと言ってくれる方がいるのであれば、ぜひ言ってください!

(取材・文/錦怜那)