西郷吉之助(鈴木亮平)(左)と大久保一蔵(瑛太)

 いよいよ明日、8月26日に放送が迫った「西郷どん」第32回「薩長同盟」。その名の通り、敵対していた薩摩と長州が手を結び、倒幕に向けて薩長同盟が成立するという、物語上の大きなターニングポイントとなる。

 そのマスコミ向け試写会が22日に行われ、筆者もひと足先に拝見してきた。各社から発売されているガイドブックなどにあらすじが掲載されていることから、事前に予備知識はあったものの、予想を上回る充実した内容に圧倒された。これまで放送された全話の中でも、一、二を争う出色の名エピソードと言っていい。

 前回、下関で予定していた会談に欠席したことで、長州との橋渡しを買って出た坂本龍馬(小栗旬)や長州藩士・桂小五郎(玉山鉄二)からの信頼を失った西郷吉之助(鈴木亮平)。薩摩と長州の関係が悪化する中、勅命を得た一橋慶喜(松田翔太)は、二度目の長州征伐に向けて動き出す。この危機に対して、長州との同盟を希望する吉之助の意をくんだ大久保一蔵(瑛太)が、起死回生の策を考案。これを機に、両者は再び交渉に向けて動き出すが…。

 そしてクライマックスは、薩長同盟をめぐる吉之助ら薩摩側と、長州の代表である桂の交渉。史実的にはもちろん、サブタイトルを見ても、ここで薩長同盟が成立することは明らか。だが、映像になったその場面には、そんな結末を忘れさせる緊迫感がみなぎっていた。

 試写後の会見に出席した玉山が「ご覧になっている皆さまに、薩長同盟が締結されるという意識がある中、どれだけ緊張感を持って見せられるかということを、僕たちはずっと考えていた」と語ったが、その言葉通りの白熱ぶり。鈴木、玉山、小栗をはじめとした出演者が、一堂に会した豪華さはもとより、力強いおのおのの芝居に思わず目がくぎ付けになった。

 だがそれは、一朝一夕にできたものではない。ここに集まった俳優、一人一人がこれまで積み上げてきた熱量の高い芝居があればこそ。それが一つになったことで、これほどのシーンになったのだ。

 その意味で、この場面は本作の一つの集大成であり、全編中、屈指の名場面になることは確実だろう。会見で鈴木が「『西郷どん』は、史実の裏にある人間的な感情を届ける作品。そういう意味で、『西郷どん』らしい薩長同盟になった」と振り返ったが、まさにそんな場面に仕上がっている。

 そして、筆者にとってこのエピソードが印象的だった理由がもう一つある。それは、敵対していた薩長が手を結ぶ過程が、世界中で分断と対立が進む今の世にも通じる理想的な姿として映ったからだ。この点に関して鈴木から、筆者の思いと重なる言葉が出たので、抜粋して引用する。

 「多数の人が憎み、いがみ合っている国同士でも、実際に触れ合ってみると、すごく仲がよくなる瞬間がある。俳優という職業をやっていて、僕はそういう感情を信じたいと思うんです。僕らの芝居で戦争がなくなるわけではありませんが、エンターテインメントというものを通して、人の良心を信じていきたい。(中略)今も同じようなことが起きていますが、今も続く、そういう憎しみと友情の縮図のように見えました」。

 第32回「薩長同盟」は、これまで見てきた視聴者にとっても見逃せない回であることは言うまでもないが、初めて「西郷どん」を見る人の心にも、きっと何かを残すに違いない。

(井上健一)