『繕い裁つ人』に主演した中谷美紀

三島有紀子監督(『しあわせのパン』)の新作は、仕立て屋のヒロイン・市江と、彼女を取り巻く人々を見つめた『繕い裁つ人』。先代の祖母が作った服の仕立て直しとサイズ直し、祖母のデザインを流用したオーダーメイドを、足踏みミシンで作り続けることに、頑なにこだわる市江に扮した中谷美紀が裏話を明かした。

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原作は池辺葵による同名コミック。映画化にあたり、最初から中谷を主演に考えていた監督は、作品のイメージとしてデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハンマースホイのポストカードを中谷に渡した。「実は『スイートリトルライズ』に出演させていただいた折に、矢崎(仁司)監督からもハンマースホイの画集をお預かりしたんです。ふたりの監督が、同じ世界観、空気感を私に求められたというのは、とても不思議な感じがしました」と振り返る中谷。同時にストンと納得できたとも。「この世界観を作ろうとされているのだとの保証書をいただいた感じでした。あとはもう監督を信じれば大丈夫という気持ちになりましたね」。

洋服も重要なパートを担う本作。どれも美しい衣装の中で、鎧のようにも映る市江の青い作業服がとりわけ存在感を放つ。中谷はそれを身にまとい、凛としていて芯があり、それゆえ時に頑固ジジイと呼ばれるが、チャーミングな面も持ち合わせる市江そのものとして生きる。さらに本作は変化の物語でもある。特に影響を与えるのが、三浦貴大扮する大手デバートの服飾担当・藤井。

「監督はすべてを見せることはしないんです」とほほ笑む中谷が秘話を語った。「藤井の登場はあるシーンで終わっています。でも実際の撮影ではもっと登場シーンがあって踏み込んだ表現になっていました。それを監督は編集でカットなさった。さすがだと思いましたね。観る方に想像の余地を残す。私はとても好きな終わり方です」。カットしたからこそ、より思いが伝わることもある。爽やかなラストに、ふと心が軽く、そして温かくなる。

『繕い裁つ人』
1月31日(土) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

取材・文:望月ふみ