両氏が情報公開制度で取得した「29選総契第3037号契約番号29-00124 委託契約書」(平成29年執行衆議院議員選挙に係る啓発事業実施委託)

2017年10月に東京・墨田区にある東京ソラマチの地下で実施された公共広報ゲームイベント「eスポーツ×衆議院議員選挙(選挙)」は、国政選挙の広報とデジタルのゲームを組み合わせた日本初の試みとして話題になった。PRイベント運営費とWeb広報費をあわせた費用は2095万2000円。狙いは若者の投票率アップだったが、一体どのような効果があったのだろうか。 「eスポーツ×選挙」について調査した東京電機大学非常勤講師の蔵原大氏とゲームジャーナリストの小野憲史氏が9月1日、日本デジタルゲーム学会が明治大学駿河台キャンパスで開催した「2018年夏季研究発表大会」で調査結果を発表した。タイトルは、『行政、広報、ゲームの「将来」―2017年衆議院総選挙での公共PR「eスポーツ×衆議院議員選挙」はどのように企画・運営されたか?―』。

eスポーツは、コンピュータゲームやビデオゲームを競技として捉えた際の名称。米調査会社のNewzooによると、17年の市場規模は700.9億円で、視聴者数は3億人を超えた。総務省が発表した「eスポーツ産業に関する調査研究 報告書」では、このうち日本の市場は5億円未満で、視聴者数は158万人とされている。市場規模では出遅れているものの、若者を中心に人気のコンテンツになりつつある。

「eスポーツ×選挙」の効果は?

両氏の調査は、情報公開制度で取得した公文書や、関係者への聞き取りで行った。先述した費用も両氏が情報公開制度で取得した「29選総契第3037号契約番号29-00124 委託契約書」(平成29年執行衆議院議員選挙に係る啓発事業実施委託)に記載されていた金額だ。

「eスポーツ×選挙」は、10月22日の第48回衆議院議員総選挙に先立ち10月14日と15日に開催された体験型のイベント。体験できるゲームタイトルは、「ぷよぷよテトリスR」「ストリートファイターV」「Shadowverse(シャドウバース)」。自由にプレイしたり、トッププレイヤーのレクチャーを受けながらプレイしたりと、初心者から経験者まで楽しめる内容だった。会場では選挙のポスターを配布したり、投票箱を置いたりして投票を促していた。

2日間の合計観覧者数は2220人。イベントを考案したきっかけについて、東京都選挙管理委員会事務局は、「若い人々の投票率向上は常に課題である」とし、「テレビや新聞で2017年の東京ゲームショウのニュースをみて、eスポーツの取り組みが若者の集客に成果をあげているとの内容に興味を惹かれた」と説明する。

東京都選挙管理委員会事務局から、eスポーツイベント業務を受託したのは電通だ。準備期間が2週間と短かったので、過去に実績のある電通との随意契約で企画を委託したのだという。同社がさらに、実際の企画・運営を広告代理店のテー・オー・ダブリュー(TOW)に委託し、TOWとeスポーツコミュニケーションズが直接運営を担当した。なお、約2000万円の配分は明かされなかった。

蔵原氏と小野氏の聞き取り調査で、東京選挙管理委員会事務局は、「今回のeスポーツイベントは思い切った企画だったが、ネット上のあちらこちらで記事を掲載いただいたこともあり、高評価を得たと判断している」とイベントを振り返っている。ところが、実際に投票率がどれほど向上したのかについては、選挙後が多忙だったこともあり、効果測定がしっかりとできなかったとしている。

準備期間は2週間、行政のゲームに対する抵抗感は少ない

実際に運営に携わったeスポーツコミュニケーションズの筧誠一郎代表は、両氏の取材に対して、「準備期間が2週間弱だったので、企画書をすぐに各メーカーに送り、先方の各担当にも超特急で連絡してイベント開始に間に合わせた。公共のイベントである旨を訴えて、異例の速さでゲームタイトルの使用許諾をいただいた」と答えている。

一般の商業イベントの場合、ゲームタイトルの使用許諾を得るためには6カ月程度かかる場合もある。また、運営の実務には、ゲームコミュニティ(GODSGARDEN)や格闘ゲームコミュニティの東京メンバーも携わったという。

同じく取材に答えたテー・オー・ダブリュー第三本部所属の村山浩一氏チームリーダーは、「選挙イベントの特徴は、営利目的ではなく行政からの委託だったこと、eスポーツが関係していること、若者との接点を増やすこと。eスポーツ以外にも選択肢はあったと思うが、イメージと意外性、SNS映えを意識して、選挙と若者向けのeスポーツイベントに決定した」と語っている。

政府広報ゲームを受注・企画するポイント

蔵原氏と小野氏は発表会で、「政府広報ゲームを受注・企画するポイント」についても言及。両氏は以前、「自衛隊コレクション」についても調査しており、「eスポーツ×選挙」の調査結果を総合した結論として紹介した。「真面目な企業のマメな努力がむくわれる領域」だという。

重要なポイントは二つ。ゲームだけではなくWeb広報や集客イベントといった、複数の広報コンテンツを組み合わせることができるかどうか。そして、非営利・不特定多数への公共の福祉など、発注者(行政)の目的に沿って集客できるかどうかだ。アイドルの多用や人を茶化したり不安をあおったりするような、“ふざけた内容”はマイナス評価につながるという。

蔵原氏は、「16年9月には、ホワイトハウスとeスポーツのコラボイベント『The White House Competitive Gaming Event』が開催されている。ゲームのプレイヤーも1人の有権者なので、将来、ゲームに関与することによって、政治や世の中の仕組みを変えられるようになるかもしれない」と、政府広報ゲームの将来性について語った。

ゲームを使った政府の広報活動への期待

準備期間の短さや選挙後は多忙だったことから、今回のイベントの効果測定はしっかりとできなかったものの、行政側にゲームへの抵抗感が少ないことはわかった。状況に沿うなら、ゲームを広報活動に利用する意欲もある。

こうしたイベントを通してeスポーツに対する世間の見方がか変わり、広報に役立つことが判明するならば、若者との接点となるeスポーツ・ゲームが活躍するはずだ。金銭の流れを明確にし、プレイヤーやコミュニティの発展につながる新たな取り組みとして定着して欲しいものだ。(BCN・南雲 亮平)

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