はやぶさ 遥かなる帰還』で主演とプロジェクトマネージャーを務めた渡辺謙

映画『はやぶさ 遥かなる帰還』主演であり“プロジェクトマネージャー”の任にも就いている渡辺謙が映画の公開を前にインタビューに応じた。

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映画は小惑星イトカワのサンプル採取という使命を背負い、苦難の道を辿りつつも奇跡の帰還を果たした「はやぶさ」のプロジェクトに携わった研究者たちの姿を描く。

脚本作りの段階から本作に関わってきた渡辺。特に熱い人間ドラマの部分と緻密にデータを積み重ねていく科学者たちのテイストをいかに再現しながら、映画として成立させていくかという点は「せめぎ合い、かなり監督とも悩んだ部分でした」と振り返る。「芝居の部分だけを繋げた映像を見たとき『エンターテイメントになるのか?』という思いがあった」と当時の胸の内を明かすが、これらの要素があるとき融合する。結びつけたのは原点とも言えるはやぶさ、そして盲目のピアニスト・辻井伸行による音楽だった。「宇宙を旅するはやぶさの映像と辻井くんの音楽が入ったとき、鏡のように科学者たちの心根を反射して映し出してくれた。はやぶさの模型に手で触れ、録音してもらった脚本を耳で聞いて、イメージを膨らませてくれた。考えてみたらJAXAの人ですら実際に飛んでいるはやぶさを誰も見てないんです。でもひょっとしたら辻井くんにだけ見えたのかもしれないと思うんだよね。彼がはやぶさに魂を吹き込んでくれたんだなあ」と感慨深そうに語る。

「リスクを取らなければ後悔する」というのは劇中、渡辺演じる山口が決断を迫られた際に口にするセリフである。そんな山口を渡辺は「温度は1300度くらいあるけど、赤くもないし音もしない炎を内に持つ男」と評するが、渡辺自身もまたリスクを恐れず、自らの内なる炎を燃やして歩み続けてきた人間である。「結局は、好奇心や冒険心が恐怖に勝つかなんだよね。これくらいのスピードで走ったらどんな景色が見えるのか? そういう冒険心があるからこそリスクが生まれる。それを乗り越えようという思いがあるならトライすればいいと思うんです」。

同時に年齢を重ねる中で、社会との繋がりについても考えることが多くなったという。「40代の頃から考えてはいたんですが、さらに3月11日のことがあって『お前は何を見せるんだ?』ということが強く求められている気がするんです。仕事というのはやはり社会とかかわる一番太いパイプだと思いますが、大きく価値観が変わろうとしているいま、どう社会と繋がっていくのか? という問いが強く提示されていると思います」。

『はやぶさ 遥かなる帰還』

取材・文・写真:黒豆直樹