第21回公演 たぶん世界は8年目 ゲネプロより 第21回公演 たぶん世界は8年目 ゲネプロより

9月14日、東京・三軒茶屋・シアタートラムにて『たぶん世界は8年目』が開幕した。2006年に旗揚げした東京マハロの第21回公演となる。上演時間は休憩なし約1時間40分。9月23日(日)まで上演。

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「福島の人、東京の人」を描いた今作の舞台は、原発事故の避難区域にある田所水道店の1階。道を挟んで舞台奥には、田所家の長男が暮らす家がある。田所家の三兄弟はそれぞれ独立し結婚していたが、震災の月命日には喪服を着て集まるのが常になっていた。三兄弟それぞれの生き方に、嫁いで来た女たちは振り回される。町で生まれ育った者、他県の被災者、今は県外で暮らす者など、背景が違う中でそれぞれの思い、ひいては複雑な町の現状が浮き彫りになっていく。

彼らは顔を合わせては笑い、好きな漫画で盛り上がる。それは世界のいろんなところで見られる幸せそうな日常だ。家族ならではの遠慮や小さな諍いはあるものの、それはどこの家庭にもありそうなこと。しかし、身内でもある電力会社社員による定例の説明会に、東京に住む町の出身者が現れたことで、田所家の関係に大きな波紋が広がっていく……。彼らにとっての幸せとはなんだろうか。観劇後、副題の「幸せな私たち、興味がないあなた達」が重く響く。

主宰・脚本・演出の矢島弘一は、2016年にテレビドラマ『毒島ゆり子のせきらら日記』脚本で第35回向田邦子賞を受賞。近年は『コウノドリ』『健康で文化的な最低限度の生活』などドラマ脚本でも活躍している。矢島の書く人間の複雑な心理が見え隠れする繊細な台詞を、俳優達が誠実に言葉にし、家族の微妙な機微を感じさせる。おそらく誰もが、愛情も憎しみもひっくるめて成り立つ家族関係のどこかに共感するだろう。

しかし彼らは、被災者であり、事故を起こした電力会社の親族でもある。その関係性は、家族という共同体の不安定さと絆の強さだけでなく、今の日本に漂う原発事故への“空気”も浮かび上がらせる。けして押し付けるわけではない。私たちが目に留めていなかったもの、実は目を背けたかったのかもしれないことが、家族の物語の隅々に煙のように見え隠れしている。

これまでも東京マハロは、不妊治療、いじめ、性同一性障害など様々な現代社会の問題を題材にしてきた。本作は原発事故から数年が経った被災地を舞台にしているが、社会問題だけを描いているわけではない。演劇によって家族を描き、家族の向こうに私たちは“明日”を探すことができる。

取材・文・撮影:河野桃子

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