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 イギリスを舞台にした童話を実写映画化した『パディントン』『ピーターラビット』に続いて、今度は公開中の『プーと大人になった僕』で、“くまのプーさん”が登場した。

 A・A・ミルンの『プー横丁にたった家』は、寄宿学校に行くことになった主人公の少年クリストファー・ロビンが、プーに別れを告げる場面で終わっている。

 これが“終わりの始まり”で、本作は、妻と娘と共にロンドンで暮らし、仕事に追われる日々を送る、大人になったロビン(ユアン・マクレガー)の前に、数十年ぶりにプーが現れるところから始まる。原題はズバリ「クリストファー・ロビン」だ。

 プーは、子ども時代のかけがえのない相棒の象徴だが、それは、大人になったら忘れてしまうもの、あるいは、大人になるためには忘れなければならないものでもある。

 だから、ロビンがプーに向かって「もう昔の僕じゃないんだ」と語る姿に、「12歳の時のような友達はもう二度とできない」と語った『スタンド・バイ・ミー』(86)や、妖怪との約束を忘れて大人になってしまった主人公の悔いを描いた手塚治虫の漫画「雨ふり小僧」や、大人になった正ちゃんのもとに戻ってきたオバケのQ太郎の寂しさを描いた藤子・F・不二雄の「劇画・オバQ」の切ないイメージが重なって見えた。これら、楽しかった少年時代への決別を描いた作品に共通するのは、男性特有のセンチメンタリズムにほかならない。

 ところで、ロビンを演じたマクレガーは「脚本を読んだとき、これはジェームズ・スチュワート的な役柄だと思った」と語っている。その印象は、往年の名監督フランク・キャプラの作品をほうふつとさせる、本作のラストシーンの奇跡ともつながるし、悪夢の後で本当に大切なものに気付くロビンには、スチュワートがキャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(46)で演じた主人公の姿が反映されているようにも思える。

 そして、本作のマーク・フォスター監督が「自分らしさを見失ってしまった男が、少年時代のイマジネーションや、好奇心を愛する気持ちを再発見することによって、本来の自分らしさを思い出す姿を描いた」と語るように、本作の最も重要なテーマは、“忘れていた大切なものを取り戻すこと”なのだ。(田中雄二)