舞台版『心霊探偵八雲 祈りの柩』ゲネプロより 舞台版『心霊探偵八雲 祈りの柩』ゲネプロより

神永学の人気小説シリーズにして、これまでに何度も舞台化を重ねている「心霊探偵八雲」。その新作、舞台版 『心霊探偵八雲 祈りの柩』が、2月11日、東京・新国立劇場 小劇場にて初日の幕を開けた。

『舞台版 心霊探偵八雲 祈りの柩』チケット情報

死者の魂が見えるという、不思議な赤い左眼を持った大学生・斉藤八雲。そんな八雲のもとに、宇都木という青年が心霊現象の相談にやって来る。彼いわく、ある泉で女の幽霊を目撃して以来、友人の佐和子が憑依され、歌い続けているらしい。一方、八雲の数少ない理解者で、未解決事件特別捜査室の刑事・後藤和利のもとには、かつての相棒・桐野からある相談が持ち込まれ……。

幽霊という異界の現象を扱いながらも、本シリーズが単なるファンタジーに収まらないのは、その根底にしっかりとした人間ドラマが描かれているためである。本作では泉で起きた幽霊事件と、後藤刑事のもとに持ち込まれた殺害予告事件。このふたつの事件を巡り、さまざまな感情が入り組んだ、複雑な人間模様が紡がれていく。特に注目したいのは、本シリーズの人気キャラクター、後藤刑事の過去が明らかになる点。これまでにない、後藤の切ない一面を垣間見ることが出来る。

もちろん本作がミステリーとして極上であることは、もはや言うまでもない。謎が謎を呼ぶ展開。徐々に明らかになる、登場人物たちの関係性。そして導き出される、悲し過ぎる真相。誰もが誰かを思い、行動した結果、そんな悲劇が待ち受けているとも知らずに……。八雲はその抜群の推理力を生かし、時に緻密に、時に大胆に、この事件に隠された真実を追い求めていくのである。

主人公・八雲を演じるのは、前作『~いつわりの樹』(2013年)に引き続き、若手期待の久保田秀敏。クールで飄々とした八雲というキャラクターを、すでにしっかりと我が物にしている。八雲との腐れ縁が続く小沢晴香役には、美山加恋。シリアスなシーンの多い本作では、友達以上・恋人未満という八雲と晴香の関係性が、何とも微笑ましく映る。また後藤刑事役の東地宏樹と、後藤の相棒・石井役の佐野大樹のコンビは今回も健在。彼らふたりのコミカルなやり取りも、作品にいいスパイスを与えてくれている。さらに八雲と後藤のあるシーンでは、彼らが奇妙ではあるが、しっかりとした友情で結ばれていることを再確認させてくれる。

原作ファンはもちろん、演劇ファンからミステリーファンまで、幅広い観客を満足させることができる良作である。東京公演は2月22日(日)まで。その後、2月27日(金)から3月1日(日)まで大阪・ABCホールでも公演。

取材・文:野上瑠美子

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