寺田心(スタイリスト:高橋由光)、棚橋弘至(スタイリスト:小林洋治郎/ヘアメイク:山田みずき)

 人気プロレスラー、新日本プロレス所属の棚橋弘至が主演する、映画『パパはわるものチャンピオン』が9月21日から全国公開される。絵本『パパのしごとはわるものです』、『パパはわるものチャンピオン』(作:板橋雅弘、絵:吉田尚令)を原作に、悪役の覆面レスラー、ゴキブリマスクとしてリングに上がる大村孝志とその息子・祥太の絆を描いた物語だ。公開に先駆け、大村役を熱演した棚橋と祥太役の寺田心に撮影の舞台裏を聞いた。

-原作にも登場するプロレスラーのドラゴンジョージは、もともと棚橋さんがモデルだったそうですが、今回演じたのは主人公のゴキブリマスクです。そのあたりは、どう感じましたか。

棚橋 絵本は読んでいたので、ドラゴンジョージのモデルが僕だということは知っていました。でも、脚本を読んだとき、「今の自分にすごくシンクロするな」と思ったんです。かつてのエースがけがで一線を退いているけど、ヒール(悪役)レスラーという立場でなんとか好きなプロレスを続けている。そんなシチュエーションがここ数年の僕とシンクロして、スッと入ってきました。

寺田 僕も絵本を読んだときは、棚橋さんがドラゴンジョージをやるのかなと思いました。でも、ゴキブリマスクと聞いて、面白そうだなって。ゴキブリマスクのマスクもカッコよかったです。

-お二人の親子の雰囲気がよく出ていました。そういう空気を作るために、どんな準備をされましたか。

棚橋 撮影前に2カ月ぐらいリハーサルをやりました。そのときに監督が、心くんと2人で過ごす時間を多く作ってくれたおかげで自然と会話できるようになった感じです。お互いに、僕は心くんのことを“祥太”、心くんは僕のことを“パパ”と呼ぶようにして、現実と映画の境目もあやふやにして。

寺田 棚橋さんと一緒にリハーサルをして、楽しかったです。棚橋さん、すごく努力されていたし、お芝居の後に遊んでくれたり、プロレス技とかいろんなこと教えてもらったりして…。おかげでプロレスが大好きになりました。

棚橋 撮影前に試合を見に来てくれたよね。リングサイドに心くんがいるのが分かったので、一緒に練習していたゴキブリマスクのポーズでアピールして。でも、そのとき他の人たちは誰も棚橋がなぜそんなポーズをしているのか分からない(笑)。

寺田 こっちを向いてやってくれたので、びっくりしました。うれしいような、大丈夫かな…?みたいな気持ちになりました。

-お母さん役の木村佳乃さんを含めた3人の家族の雰囲気もすてきでした。

棚橋 木村さんも2回ほどリハーサルに入ってくれましたが、明るくて、元気はつらつで、優しい方で…。大黒柱として演者全員を引っ張ってくれました。本当は僕が座長なんですけど、自分は役者として一生懸命やること以外、考える余裕がなかったので、木村さんが全体をサポートしてくれてすごく助かりました。

寺田 木村さんは「ココちゃん、大好きだよ」とか「ヨッシーママって呼んでね」と言ってくださって、すごく優しい方でした。でも、パパは中学校とか高校のとき、木村さんのこと好きだったんでしょ?

棚橋 そうそう。学年が同じなんですよ。木村さんに会ったとき、なんかドキドキするな、と思ったら、「俺、超好きだったじゃん」と思い出して…。今回、木村さんに会えたことが、一番の収穫です(笑)。しかも夫婦役。これからプロレスの試合でつらいことがあったら、この映画を見ます(笑)。

-棚橋さんは演技の面では、2人に助けられた感じでしょうか。

棚橋 そうですね。プロレスでは、経験値の高いレスラーとそうでないレスラーが試合をするときは、経験値の高いレスラーがリードすることがあるんです。同じように演技も、経験値の高い人とやると引っ張られる部分があります。相手のお芝居にグッと引っ張られると、気持ちの入ったせりふが出てくる。そういう意味では、心くんや木村さんとのシーンでは、僕が引き出してもらったのかなと。

-本格的なプロレスのシーンも見どころですが、撮影はいかがでしたか。

棚橋 実際の試合は、始まったら決着がつくまで止まりませんが、撮影では角度を変えて何回も同じ技を撮るので、すごく難しかったです。体も温まっていないし、技を受ける気持ちがないとけがをしてしまうし…。そもそも、朝7時にパイルドライバーを喰らったことはありません(笑)。「おはようございます!」みたいな、目覚まし代わりのパイルドライバー(笑)。きつかったです。でも、この撮影を通して、僕はさらに打たれ強くなりました。

-この夏、G1 CLIMAX28で優勝されましたが、そういうところにもつながっていますか。

棚橋 つながっていますね。僕の活躍が映画のヒットにも少なからず関わってきますから。いい映画ができたので、たくさんの人に見てほしい。そのために、僕も頑張ります、と。そういうふうに、この映画がG1のモチベーションになりました。

寺田 撮影のとき、棚橋さんがオカダ(・カズチカ)さんの技を受けて、倒れたことがあったんです。カットがかかった後もずっと倒れていたので、すごく心配になって、止められていたのに思わずリングに上がっちゃって…。

棚橋 優しいですよね。それだけ感情移入して見てくれたことは、とてもうれしかったです。

-観客に一番見てほしい部分は?

寺田 おじいちゃん、おばあちゃんから小さい子までみんなが見られるので、いろんな役の立場に立ってみれば、いろんな見方ができるのではないかなと思います。祥太くんの心情の変化も見てほしいです。最初はパパの仕事を恥ずかしいと思って、友だちにうそをついてしまうけど、最終的には応援するようになるので。

棚橋 この映画は、祥太、パパ、ママ、どの目線から見ても救いがあります。例えば、祥太くらいの年の子は、パパやママが家の外で頑張っていることは、なんとなく分かっている。だけど、実際にどんなことをしているのかは知らなかったりする。お父さんやお母さんも、子どもたちからリスペクトを得たいんだけど、口で言っても伝わりにくい。でも、この映画を見たお子さんたちは、パパとママが頑張っていることを理解してくれると思うんです。そういう意味で、“得しかない映画”なので、ぜひたくさんの方に見ていただきたいです。

(取材・文・写真/井上健一)

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