――ABCもアルバムのブックレットに絵本のようなストーリーをつけてたり(「『2012』」)、『Q.E.D.』のコンセプトは架空の殺人事件ですからね。新作『L-エル-』も予告トレイラー動画を見る限り、そういった創作的な仕掛けはあると思います。

市川:ほら、ジャンヌでもトータル・コンセプト・アルバムと、その攻略本というか副読本的な同名小説を同時リリースしてたじゃん。ストーリーブックと称してさ(『ANOTHER STORY』)。あれも結局、ファンタジー少年の発想だもんねえ。ゲームが好きでマンガを描くのが好きなロック少年・yasu。そして彼のV系的世界観を補強するのはゴスでも文学でも実験でもなく、ゲームやアニメだったわけですよ。

 

 

『私も「ヴィジュアル系」だった頃。』ファンタジー少年だった過去を語るyasuとの対談も収録

――RPG文化みたいな…。

市川:結局RPG文化って、ゼロ年代になろうが10年代に突入しようが、基本的な世界観の構造は変わってないじゃない? 細分化や拡大再生産は起きても。
という意味では実はABCは、yasuの中学高校時代の頃から好きだったものがそのまま引き継がれているだけなんじゃないのかなあ。

――でもですね、それがなんでOLさんやギャル層の心を掴んでるのっていう話ですよ!

市川:人気のあったRPGのゲームって昔からさ、誰でも感情移入できるストーリーが売りだったわけじゃん。プレイヤーが勝手に自分の立場に置き換えて、みたいな互換性が優秀でさ。

――たとえばドラクエの主人公は台詞がないから感情移入しやすいところはありますねえ。

市川:yasuのコンセプト性もそれに近いというか、実は「どうとでも解釈できる」ようなものが多くない? たとえば主人公がOLさんだろうがホストだろうが、どちらでも成立しそうなラヴソングとかね。そういう意味では、彼の描く曲のストーリーには普遍性があるのかもしれない。わははは。

そしてそんな彼ならではのRPGをよりV系らしく仕上げるために、縮小するV系シーンで苦労の絶えないバンドマンたちをコマンドーとして集めて、V系サウンドしてもらう。バンドだとメンバーに気ぃ遣って100%自分色にできなくても、あくまでもプロジェクトなら大丈夫――つくづく<机上エンタ>が得意な男よのぉ。

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