ケルンメッセからほど近いところにひっそりとたたずむSt. Heribert Pastoralburo。入り口で誰かがスマホをいじっていた。カラーだとイマイチでも、ラフモノクロームにすると、なんとなく雰囲気が出てくる(写真をクリックするとオリジナル画像が見られます)

【ドイツ・ケルン発】 フォトキナの取材でケルンに来ている。9月24日早朝、アブダビ経由でデュッセルドルフ着。特急が止まっていたので(よくあることらしい)各駅停車でケルンまでのんびりと移動。ほとんど眠れなかったのでへとへとだったが、少し街を歩くことにした。やっぱり大聖堂には挨拶しておかないと怒られそうだ。今回は広角モードを搭載した買ったばかりのスマホで撮ってみる。やはりでかい。それでもちゃんと一枚に収まったのはさすがだ。画面で見るとすごくよく写っているように見えた。しかし、あとからPCで見ると何か物足りない気がした。

ミスターGRことリコーの野口さんが、インタビューでこう話してくれた。「最近のスマホはすごい。料理とか大抵のものはきちんと撮れてしまう。でも撮るプロセスはカメラでしか楽しめない」。その通り。痛いほどわかる。自分も写真歴ん10年。その昔、暗室で現像や焼き付けもやっていたほどの、自称筋金入りの写真ファンだ。

スマホで撮るのはやめにして、カメラで撮ることにしよう。野口さんに敬意を表して機材はGR。海外の街撮りでも最近出番が多い。大聖堂の入り口はいつ見てもほれぼれする。どこをどう切り取るかで悩むが、いつものパターンに落ち着いた。ついでにレストランで遅めの昼食にステーキを奮発。そこでケルン名物で細長いグラスで飲むビール、ケリッシュを撮ったが、寄り切れずにぼけてしまった。

フォトキナ会場のケルンメッセからほど近いところに、ちょっとしたレストランやスーパーが並ぶ、居心地のよさそうなところを見つけた。少し歩くと古い教会が現れた。地図で調べると、St. Heribert Pastoralburoとある。どこの国でも教会は好きだ。たたずまいそのものが画になる。

中に入っても、薄暗い空間に映えるステンドグラスやキリスト像を見ると何回でもシャッターを切りたくなる。モスクも同じだ。建物もさることながらアザーンを聞きながら礼拝する人々は素晴らしい被写体だ。今日は、入り口に誰かが立ってスマホを触っている。ラフモノクロームで撮ってみた。

このところ東京でよくみかけるのは、外国人観光客が「変なもの」を嬉々として撮っている姿だ。自動販売機だったり、下町の看板だったり、空港のトイレだったり。彼らにとって珍しいものにはついついシャッターを切りたくなるようだ。

私もここではお上りさん。変なものに目がいってシャッターを切ってしまう。ごみ箱に緑色の傘が捨てられているだけのことなのだが、なぜか、この配色に気を取られてシャッターを切った。観光名所でもなんでもないこんな写真も、後から思い出すと意外に楽しかったりする。

日本では9月24日が中秋の名月だが、ドイツではどうなんだと、問い合わせの連絡がきた。そんなこと訊かれてもまったくわからないが、翌25日、とあるパーティーに招かれ、夜景のきれいな屋上で月を見ることができた。会場が高層ビルのテラスだったからだ。ケルンの街を一望できて、大聖堂と一緒に月を楽しめるという絶好のロケーション。今日なのか、昨日なのかわからないが中秋の名月付近であることは間違いなさそうだ。

ひとしきりシャッターを押した後、その場を離れると、同じ場所に来てシャッターを切る人物に遭遇した。ついさっき、1億画素のカメラを発表したばかりの富士フイルムの飯田さんだ。「日本では昨日が中秋の名月だったらしいですよ」と話しかけると、「1日過ぎたのかもしれませんけど、やっぱりきれいですね」と笑顔。彼も写真が好きなんだなあ。

来年から毎年5月開催に変わるフォトキナ。出展各社に訊いてみると、来年のことはまだわからないとの答えばかり。経費の問題や横浜でのCP+直後の5月開催というタイミングの悪さもあってのことだろう。いずれにせよ来年以降、少なくとも日本からの出展は大幅に縮小することになりそうだ。「事実上最後のフォトキナ」という声すら聞かれた。

逆にその分、今回はいつにもまして力が入っている出展社が多かった。入場料は結構高額だ。1日券が56ユーロ、4日間の通し券が141ユーロもする。それでも、開幕初日から業界関係者や写真やカメラのファンで会場はあふれかえった。今後フォトキナが大幅縮小するとしたら、この熱気は果たしてどこへ向かうのか。写真を撮りながらぼんやりとそう考えた。(BCN・道越一郎)