IoT家電は今が買いどき? 様子見が正解?

IoT(Internet of Things)がようやく一般家庭の生活家電に浸透しそうな兆しを見せ始めている。シャープや日立などの大手メーカーが相次いで“コネクテッド”をコンセプトにした製品を発表。つながることによって実現する未来のビジョンを示している。その目指すべき方向は、ガジェット好きでなくても胸が躍るものだが、実際に購入するとなると躊躇するかもしれない。いま購入しても後悔しないか、少し待ったほうが良いのか……。各社への取材から“買い時”を考えてみた。

シャープも日立も掲げるのは「進化する家電」

ネットワーク連携機能を搭載した生活家電のパイオニアといえば、なんといってもシャープだ。家電カテゴリーを横断する「COCORO+(ココロプラス)」プロジェクトを推進し、数年前からIoTを活用したソリューション開発に取り組んでいる。当初は「その機能は本当に必要なのか?」という批判的な声も多かったが、その苦労はここにきて実りつつある。

エアコンや冷蔵庫、オーブンレンジなど幅広い家電にコネクテッド機能を搭載することに成功したシャープは、次にコネクテッドだからできるこれまでにない価値を創造。スマホで家電を制御するだけでなく、ユーザーの暮らしに役立つ情報を提供したり、家族のコミュニケーションツールで機能するインターフェースとして進化を推し進めている。まだ必要不可欠な要素とまではいえないが、これからに期待させる基盤は整いつつある印象だ。

同社の健康・環境システム事業本部 メジャーアプライアンス事業部 冷蔵庫商品企画部の森元雄課長は今年3月の取材で「購入したときが『100』でも、そこからアップデートで『101』『102』とできることが増えていく。いつ購入しても新しい体験を提供することができる」とIoT家電の本質を説明した。実際、今年8月に発表された新製品の機能は、旧モデルにもアップデートで反映されている。

日立についても「進化する家電」という考え方は共通する。今年2月のBCNの単独取材で日立アプライアンスの徳永俊昭社長は「10~20年と長く使用する生活家電も、機能をアップデートすることができれば、常にお客さまの暮らしに寄り添うことができる」とコメント。日立は自社で開発するIoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」と連携させることで、個人の所有する家電だけではなく、外部サービスともつながる新たな価値創造も検討している。

この両社のコンセプトは「もっと便利な新機能が搭載されるまで様子見」と考えているユーザーにとっては朗報だ。ソフトウェアが実現する機能は常に最新バージョンにアップデートできるなら、購入時期を吟味する必要はない。さすがにハードウェアの更新はできないが、生活家電のハードは成熟しているので、数年で大きく様変わりするということはないだろう。

ネックになるのは価格と体験機会の確保

一方で、価格の問題は購入を躊躇する理由になりうる。同等クラスのモデルの価格をIoT機能ありなしで比較すると、高いものでは10万円以上の差が出る。搭載機種が増えることで価格は落ちついてくるはずだが、しばらくはプレミアムモデル限定の機能になるだろう。

IoT機能を試す機会が現時点ではあまりないのもユーザーとしては不安だ。販売店の生活家電売り場はそもそも展示品とネットワークを接続する前提がない。たとえ環境を整えたとしても、デモ機でメリットを伝えるのはなかなか難しい。IoT家電の利便性は個人データの蓄積や生活に合わせたカスタマイズによって発揮されるからだ。

いつが買い時か、という論点からはやや脱線するが、記者が気になっているのは、IoT家電を初期設備として導入しているIoT物件だ。住宅+IoT家電+通信設備をパッケージ化しているのが特徴で、昨年ごろから提供する不動産業者が増えてきている。IoTを付加価値として捉えているので、価格は上乗せしてあるが、住宅自体の価格が高価なこともあり、人気は上々の様子。機器の相性が考慮されていたり、初期設定が済ませてあったりするので、デジタルに強くない世代にも受け入れられているそうだ。

取り組みはまだ始まったばかりだが、これから数年で高度経済成長期に建設された集合住宅のリニューアルや空き家のリフォームなどは加速していく。人口減の時代に住宅だけで価値を保つのは難しいことを考えれば、IoTのような付加価値を住宅とセットにする手法はもっと広がっていくだろう。もし現在の住まいからの転居を考えているのなら、IoT家電を少しずつ揃えていくのではなく、“IoT住宅”に住むという選択肢を検討してみるのもありかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)