まとめて聴くことで、やっとわかることがある

――うむむ、アイドルソングは奥深い…。アイドルソングの面白さってなんでしょう?

南波「うーん、<アイドルソング>っていうのは、別に音楽ジャンルではないですからね。アイドルの名を借りてみんな好き勝手やっているのがいいんですかね。縛りが無いんですよ。たとえば“テクノ”とかのジャンルの中で自由に作るっていうのと、同じレイヤーで語れないというか…」

――突き詰めていくと、もう「何がアイドルか」っていう永遠の問いになってしまう。

南波「もう、それに関しては『なんなんだろう?』しかないですよね。たとえば、DISC5の「Shimane Diva Project」/『DIVA 降臨』なんて、合唱ですからね(笑)。アイドルかどうか、揺さぶりをかけてくるような存在ですよ…って僕が勝手に言ってるだけですけど」

――その曲最高ですよね! サンプル盤をいただいて、全ての曲に自分なりにジャンルをメモしてるんですが、自分はこの曲に「80年代プロレス感」と付けました(笑)。

南波「あははは、そんな感じもありますね(笑)。しかもそれを合唱でやっているわけだから、ワケがわからない(笑)。もう『これ、ディスコっぽくていいよね』みたいな価値判断とは全然違うところですよね」

――あぁ、評価軸が一元的ではないというか。それに、1曲1曲だけじゃなくて、DISCそれぞれの流れを聴いていきたいとも感じるんです。

南波「FreeSoulコンピ(注:90年代に一世を風靡した70年代ポップ・ソウル・ジャズのコンピレーション)みたいな感じで。あそこまで良いフィーリングのものばかりは並んでいないかもしれませんけど。この『Golden Lady』(注:スティービー・ワンダーの名曲。ホセ・フェリシアーノなどがカバーしている)を歌ってるのは何者なんだ?!みたいな発見があるといいですね(笑)」

――そう! 自分もFreeSoulコンピを思い出しました。他に近いと感じたのは、細野晴臣さんのコンパイルした民族音楽コンピ(注:『ETHNIC SOUND SELECTION -La Voix De Globe 地球の声-』シリーズ。全8枚)なんですよ。あのコンピも、テーマに沿っていろいろな国の音楽を集めていて。

南波「意図したわけではないけど、今回は柳田國男って言われたりして…もちろんネタ的に言ってるだろうし、自分もそんなつもりもないんですけど(笑)。でも、まとめて聴くことで、やっとわかることってありますよね。

一時期、『レゲエ・ボックス・シリーズ』(注:2000年代初頭にTrojanレコードから再発された大ヒットレゲエコピレーションシリーズ)がすごかったじゃないですか。そういう“量で聴く”感覚ですよ。1枚のコンピ、2枚組のコンピじゃ足りないぐらいめちゃくちゃいろいろあるので」

――6枚組だからこそ、っていうところはありますよね。DISC1、2あたりを聴いていた時は、「これ2枚組でいいんじゃない?」って思ったんです。曲数が多すぎると混乱するんじゃ?って。

南波「ええ、わかりますわかります」

――でも、3、4と聴いていくうちに、こんな括り方もあるんだ!と思ったり、DISC5なんてこの流れじゃないとあり得ない!って。

南波「そうですね、いろいろとあってこそ、このDISC5なんだ、そこが面白いっていうところもありますね。数は必要なんですよ。まぁ、みなさんにちゃんと聴いてもらえるかどうか不安ですけど(笑)」

――各DISCに1曲ずつ入っているのと、全然聴こえ方が違うと思います。「みかん星☆彡」/『ちょうどイイ♪』なんて、この流れで聴けるからこそイイっていうのもありますよね。

南波「それに、DISC4の最後の「s-mash」/『夏のエンドロール』もヴォーカルがすごいことになっていて、ある意味DISC5案件でもあるんですよコレ(笑)。それぞれのDISCが繋がればいいなというところも考えています」

――わはは、“DISC5案件”ってイイですね(笑)。問題作だらけのDISC5の中では、「髭男爵山田ルイ53世プロデュース まどもあ54世」/『貴族で庶民な女の子』は、なんというか“普通”ですよね。

南波「そうそう、普通のバラードなんですよね。お披露目ライブだけで配られたCD-Rに入っていた曲なんで、世に50人ぐらいしか持ってなかったっていう。この曲の歌詞がすごく好きなんですよ。貴族の女の子の世界をずっと歌ってるんですけど、『もじもじしないで下々』っていうフレーズで始まるんです。もう、それが面白くて収録のお願いをしました」

――わはは、もう一点突破すぎる(笑)。

南波「平均点の良いモノじゃなくて、何でもいいから一個でも突き抜けていたらいい、と思って選んでいるんです。歌い方とか、音のどこかの部分が面白かったりするのを重視してます。だからPerfume以降の四つ打ちのエレクトロみたいな楽曲は、好きだけどあんまり入れなかったですね。平均点の高いジャンルなので。飛び抜けて完成度が高いか、もしくはどこか崩れていたらいいなと思うんですけど」

――DISC3は「chairmans」/『愛しのエイリアン』から「citron*」/『真冬のサンライト』っていういいテクノポップの流れがあるんで、テクノポップくくりなのかな、と思いきや、そうではない曲も入ってますね。

南波「そこにはこだわらなかったです。それから、グループの定番曲かどうかっていう点も考慮しなかったです。ライブで盛り上がる曲と、CDで聴きたい曲とまた違うと思うし。マニアックかもしれないけど、バランスがいいモノじゃないほうがいい、ちょっと突き抜けるものを提示したかったんです」