撮影:引地信彦

歌唱力抜群の「湖の貴婦人」平野綾に課したこととは?

この平野さんの使い方がまたムダに贅沢。役どころは、アーサー王に魔法の力が宿る聖剣・エクスカリバーを授ける、強く美しく神秘的な女性。ミュージカルですからもちろん歌も披露します。

少し前に別のお芝居でマルシアさんの歌声に圧倒されたばかりの私でしたが、平野さんの歌も圧巻。本作の直前までは、ミュージカル『モーツァルト!』でモーツァルトの妻を演じ、4月からは同じくミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演するほどの力を持った人です。

しかし、1幕目の中盤で派手に登場し、「こんな歌」というミュージカルの予定調和を歌詞にした曲をユースケさんと共に歌い上げた後、第1幕は出番ナシ。そして第2幕ではついにしびれを切らし、何でミュージカル女優でもある自分の出るところがこんなに少ないのかという思いを怒りを込めて歌います。

その歌声は『レ・ミゼラブル』なら観客を感動させ、涙させるようなすばらしさ。そんな歌唱力の持ち主をガニ股でイラつきながら出てくる役に据えるのはムダな贅沢以外の何物でもないでしょう。

ちなみに今回福田さんは、ワールドツアー用の衣装を購入しないか、というプロデューサーの話に「買ってください」と即答したそうです。これまた贅沢な話。しかしこちらは「ムダ」にはならないようで、福田さんは「これから先、何度もやらなきゃならない。衣装、買っちゃったから」(『モンティ・パイソンのSPAMALOT』パンフレットより)と述べています。
 

回を重ねるごとに面白味が増す「舞台の面白さ」

舞台のお芝居は、同じものでも何度も見たくなってしまいます。公演を重ねていくうちにさらにお芝居が練り上げられ、公演の終盤ともなると面白味に磨きがかかり、時には楽屋ネタが出ることも。歌舞伎ですら個人的な話題をセリフに織り込み、見る人を笑わせることがあります。

まだお芝居の舞台を見たことのない方には、まずは肩ひじ張らないコメディをお勧めします。しかもそれが福田雄一さんの手掛けたものなら最高です。

 

撮影:引地信彦

会社員からテレビ番組やDVDなど映像関係の英日翻訳者を経てライターに。 ハーバルセラピスト、アロマセラピーアドバイザーの資格あり。子供の頃からお笑い好きで、当時読んだ「落語全集」は宝物。でも、なりたかったのは落語家ではなく小説家。今、こうして文章を書いて人に伝える仕事をしていることに喜びを感じてます。