西郷隆盛役の鈴木亮平

 これまで「語り」を務めてきた西田敏行が、成長した西郷隆盛の息子・菊次郎を演じるというサプライズと共に幕を開けた最終章・明治編。放送に先立って行われた会見で、主演の鈴木亮平と西田が、そのサプライズの舞台裏や撮影の裏話、明治編の見どころなどを語ってくれた。

-これまで「語り」を務めてきた西田さんが京都市長になった菊次郎を演じるということで、サプライズなキャスティングになりました。出演すると聞いたときの感想は?

西田 驚きました。第1回からナレーションを務めさせていただき、まさかこういう形で出演するとは思っていなかったので…。ただ、オファーを頂いたとき、「このナレーションは、菊次郎だったのか」と思ったら、ふに落ちた部分もありました。菊次郎目線でこれまでの回を振り返ってみると、なかなかうまくつながっているなと…。とても気持ちのいいだまされ方をしました。

鈴木 西田さんは役者として尊敬する大先輩。隆盛は、その方が演じる菊次郎の心の中に強烈な印象を残す父親ということで、西田さんの重みに負けないものを、何らかの形で表現したいと思いました。同時に、今までのような隆盛の明るい面だけでなく、「この人はどういう経験をしてきたんだろう?」という、菊次郎から見た父親のミステリアスな部分を、演じる上で大切にしました。

-西田さんは、第39回のナレーションを録音する際、今までと気持ちの上で違った部分はありましたか。

西田 第39回から映像として出てくるので、そこから切り替わってナレーションに行く際は、思いがずれないように、声のトーンなども含めてかなり神経を使いました。演じる際は、菊次郎をなるべくナレーションの声に合わせるようにしています。ただ、それはテクニック的な問題にすぎません。気持ちの上ではごく自然に演じることができたので、何の違和感もありませんでした。

-第39回は愛加那(二階堂ふみ)と糸(黒木華)という、隆盛の2人の妻の対面も見どころでした。

鈴木 愛加那さんの久しぶりの登場はグッときました。ただ困ったのが、糸さんと愛加那さんがいる場所に、僕はどんな顔をしていたらいいのかと…。そこで、スタッフに「会わないで過ごしたいのですが…」と相談したところ、うまく導線を考えてくれて。おかげで無事、会わずに過ごすことができました(笑)。あの緊張感の中に僕がいると、お二人もやりにくかったでしょうから…。改めて、人生の複雑さを思い知りました(笑)。

西田 二階堂さんも黒木さんも、僕は大好きな女優さんなので、ナレーションでも「両方ともおろそかにはできないぞ」という特別な気持ちが湧いてきましたね。

鈴木 僕も、あのシーンは怖かったです。女優としてものすごい熱量を発するタイプの二階堂さんと、落ち着いてしっとりした黒木さんの対峙(たいじ)。せりふでは思いやりのあることを言っているのですが、その裏では隆盛をめぐる女同士のプライドがぶつかり合う場面だったので…。

-第39回から登場した少年時代の菊次郎を演じる城桧吏くんの印象は?

鈴木 『万引き家族』(18)で大きな賞を取った直後ということで、周りの見る目が変わって来ると思うんです。でも、本人は浮ついた様子もなく、とても真面目にお芝居に取り組んでくれました。向き合ってみたら、何も話さなくても伝わる存在感や目力みたいなものをものすごく感じました。

-西田さんがここまでの鈴木さんをご覧になった感想は?

西田 本当に敬意を表します。僕も経験がありますが、1年間、吉之助から隆盛に至るまでやり遂げるのは、精神的な部分も含めて大変なこと。それをプレッシャーに負けず、よくやってきたなと。

-西田さんは、ご自身も「翔ぶが如く」(90)で西郷隆盛を演じていますが、鈴木さんの西郷をどんなふうにご覧になっていますか。

西田 僕のときは、どちらかというと、顔や扮装をなるべく上野の銅像の西郷さんに近づける形で役を作りました。ただ、「西郷どん」では、第1回の冒頭で、糸さんが銅像の除幕式の場面で「あれは、うちの旦那さんではない」と言っているわけです。だから、僕の場合とは違います。鈴木くんが自分の心の中に存在する“西郷隆盛”に肉付けして、新しく“西郷どん”という人物を立派に作り上げた…。僕はそんなふうに思っています。

-最終章となる明治編の見どころを。

鈴木 いろいろある中で一つに絞るなら、やはり西郷隆盛と大久保利通、すれ違っていく2人の関係です。鈴木亮平と瑛太、同い年の役者同士の全力のぶつかり合いを、ぜひご覧いただければ。愛情や憎しみ、全てが入り混じったぶつかり合いになっています。それとともにタイトルバックも新しくなりましたが、出演者クレジットの最後、瑛太くんの顔に合わせて名前が出るのを見たら、思わず涙が出てきました。最後の“トメ”と言えば、今までは大御所の方の定位置。そこに「瑛太」と出る…。瑛太くんがこの現場でどれほど頑張ってきたのかを知っているので、ものすごく感動しました。その点も、ぜひ注目してください。

西田 僕は福島の出身なので、戊辰戦争に対してはいろいろな思いを抱きながら、これまで見てきました。世の中を変えるためには、何らかの犠牲が必要ということは否定しません。ただ、あらがった者たちの言い分もきちんと聞いてほしい。西郷隆盛は、そういう思いを受けとめてくれる情の厚さがあるから、会津の人間からも好かれていると思うんです。そういった意味での集大成が、この明治編の中で出てくるのではないかと期待しています。

鈴木 その点に関して付け加えさせていただくと、戊辰戦争では多くの人が亡くなっていますが、そのうち数千人が会津の人。劇中では会津の戦いは描かれていませんが、そこも全部背負っていくことが、隆盛の人生につながると思っています。(会津側の視点で幕末を描いた)「八重の桜」(13)に出演していた玉山(鉄二:桂小五郎役)さんからも「会津の思いは全部背負っていってくれ」と言われました。それを踏まえてせりふも追加させてもらいましたし、演じる上でも意識しているつもりです。

(取材・文/井上健一)