『search サーチ』

 今週は小品の佳作と呼ぶにふさわしい2本の映画を紹介しよう。まずは、全編がパソコンの画面で展開する『search サーチ』から。

 本作の主人公は、最近妻を亡くしたばかりの韓国系アメリカ人のデビッド・キム(ジョン・チョー)。彼の16歳の娘マーゴット(ミシェル・ラー)が、突然姿を消す。行方不明事件として捜査が開始されるが、家出なのか、誘拐なのかも全く分からない。マーゴットのSNSを探ったデビッドは、そこに自分の知らない娘の姿を見ることになる。

 キム一家の歴史を紹介する映像のモンタージュに始まり、全編がパソコンの画面で展開するというアイデアが秀逸。われわれが、普段いかにパソコンやスマホに依存しているのかが見えてきて、怖くなるところもある。

 本作が、監督デビュー作となったインド系アメリカ人のアニーシュ・チャガンティは27歳。「スティーブン・スピルバーグ、M・ナイト・シャマランに次ぐ、映画の天才登場!」と騒がれているようだが、『激突!』(71)を25歳で、『ジョーズ』(75)を29歳で撮ったスピルバーグや、『シックス・センス』(99)を29歳で撮ったシャマランもそうだったが、いくら斬新なアイデアがあっても、それを生かすストーリーテリングがよくなければ話にならない。

 その点では、本作も巧みに書かれた脚本が最大のポイント。見かけは斬新だが、中身は、アルフレッド・ヒッチコックの諸作を思い起こさせるような、オーソドックスなミステリーの作劇法をきちんと踏襲しているのだ。サンダンス映画祭で観客賞を受賞したのも納得できる。

 続いて、1969年の米ペンシルベニア州を舞台にした『ライ麦畑で出会ったら』。

 孤独な寮生活を送る高校生のジェイミー(アレックス・ウルフ)は、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を劇化することを思いつき、本人の許可を得るため、演劇サークルで知り合ったディーディー(ステファニア・オーウェン)と共に、隠せい生活を送るサリンジャーの居所を探す旅に出る。

 本作は、兄をベトナム戦争で亡くし、心に傷を持つ気弱な高校生と、彼に好意を寄せる少女の、小さな旅を描いているのだが、ニューシネマをほうふつとさせるような飾り気のない映像や、素直な人物描写が好ましく映り、旅を続けるジェイミーとディーディーがいとおしく見えてくる。

 ところで、本作はジェームズ・サドウィズ監督の自伝的な要素が強いという。つまり彼は実際にサリンジャーと会ったことがあるのだ。

 それを知って思い出したのが『フィールド・オブ・ドリームス』(89)である。あの映画で、主人公のレイ(ケビン・コスナー)が見付ける隠せいした作家は、架空の人物になっていたが、W・P・キンセラが書いた原作の『シューレス・ジョー』では、レイが会いに行く作家はサリンジャーなのである。映画はサリンジャーの了解が得られず、苦肉の策として架空の人物を創造したのだという。

 つまり、本作は『フィールド・オブ・ドリームス』がかなえられなかった夢をかなえたことになる。サリンジャー役のクリス・クーパーも、“多分サリンジャーはこういう人”と感じさせる好演を見せる。このように、本作を通じて、映画と映画がつながる楽しみを味わうこともできるのだ。
(田中雄二)